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「あのさ」
くるりと。
少しだけ前を歩いていた彼が振り返って、前方のとあるカフェを指差した。
「あそこで食べない?」
「え? ええ……全然構わないけど」
彼が指し示したのは、チェーンの喫茶店だった。コーヒーや紅茶、ケーキがメインの喫茶店。ご飯系の食べ物もあるにはあるが、サンドウィッチやパスタぐらいで、二人でせっかく外食するにはもったいないと思う。
しかし、それを口にする勇気は私にはなかった。
いつもと様子の違う彼にただ黙々とついていき、彼の機嫌をできるだけ損ねないようにしたい。もっとも、彼がこれまで理不尽に機嫌が悪くなるようなことは一度もなかったけれど。自分の中の勘が、私にそうさせたのだ。
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