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「……さん、茜さん」
近くで名前を呼ばれ、はっと我に返る。
「菜々子」
午後3時40分、私は正面の席に座っている後輩の菜々子から何度も声をかけられていた。
「どうしたんですか、茜さん。やっぱり最近おかしいですよ」
「そう、かな。ちょっとさ、最近瞑想にハマってて」
「はあ? 瞑想って、それ仕事中にやることじゃないです〜」
「ははっ。それもそうね。菜々子は真似しちゃダメよ」
菜々子は「もう」と呆れているが、賢い子だから本当は私の異変が彼と関係することだと気づいている。しかしそれをあえて口にしないのだ。そういうところが、私は好きなんだけれど。
彼と別れて一週間。
29歳の誕生日を祝ってもらったのも、つい一週間前なのだ。
あの日あれだけ心が高揚して、まるで付き合いたてのデートみたいにドキドキして、ままならなくて、楽しかった。
それなのになぜ、彼は翌日になってまるでスイッチを切り替えたかのように別れを切り出したのだろう。
あの時はその場で受け入れたけたけれど、所詮虚勢に過ぎなかった。
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