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茜の言いたいことは自分にもよく分かる。
きっと彼女は、弘志みたいな束縛男となんて、早く別れてしまえばいいじゃないかと言いたいのだ。
けれど、私にだって、私の人生がある。
もうすぐ30を迎える女が、“束縛”以外に何の悪いところもない男と今別れてしまって、この先また別の男と恋愛ができる保証なんて、どこにもないのだ。
「まあ、ねぇ。由梨の焦る気持ちも少しは分かるけど。あたしだったら絶対ソッコー別れる。それで、さっさと次いく!」
見切りをつけたらすぐに次の物件へと走っていく勢いのある彼女は、大手商社でバリバリのキャリアウーマン。独身だけど、私と違って彼女は女一人でも十分に生きていける性質なのだ。
しかしそれを以前冗談で言うと、
「あのね、あたしだって夢くらい見るわよ」
と乙女チックな返事が返ってきた。
とはいえ今の頼もしい彼女を見ていると、男を物ともせずに働いて生きていて、正直羨ましい。
「茜みたいに、強くなれたらなー……」
「またそーゆーこと言う! ほら、シャキッとしなさい。あんな男に人生奪われちゃダメよ」
「……うん」
「とにかく、あまり考え過ぎて追い詰められないこと! そして無理はしないこと! 何かあったら、あたしに相談してよね」
茜は優しい。
普段はサバサバとした言動をしており、雄々しいと思うこともあれば、こうして女友達を心配してくれる優しさを持っている。
彼女と話していると本当に励まされると思いながら、私は「ありがとう。またね」と電話を切った。
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