31人が本棚に入れています
本棚に追加
とにかく私は必死で走った。走って走って元来た道を戻り、電車に乗って放心状態のまま自宅の最寄駅まで揺られていた。電車から降りたあとは、もう走る気力すらなくて、行き場をなくした迷い犬のようにふらふらと歩いた。
彼のことなど考えたくないのに、凍えるような寒さに胸が疼くのが腹立たしい。
そのうちはらはらと雪が降ってきて、より一層苦しくなる。
だって雪はいつだって、名前に“冬”をもつ親友と、“ゆき”のある彼を思い出させるものだから。
「友貴人……」
友貴人、友貴人、友貴人。
私から、もう奪わないで。
あなた自身と、冬子を、奪わないで。
最初のコメントを投稿しよう!