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そのうちの一つ、一番上に表示された彼の名前を指で選択する。
深呼吸をして通話ボタンを押そうとした、その時だった。
ブブーッと、手に持っていた携帯が震えた。
「わっ」
びっくりして画面を見れば、そこにあったのはなんと、他でもない彼の名前だった。
通話に出るか出まいかの選択を迫られた私は、途端にバクバクと鳴る心臓を抑えながら、それでも震える指で通話ボタンに触れた。迷いはなかった。びっくりしたし、怖かったけれど、彼の方からかかってくる電話に、一筋の光を感じないわけがなかったから———。
「もしもし……」
本当に恐る恐る、という感じで私は電話に出た。
彼が返事をしてくれるまで、数秒の間があった。その沈黙が、彼の緊張を伝えてくる。
『……茜?』
何十回、何百回、何千回と聞いてきた彼の私を呼ぶ声が、耳の奥でこだまして、私は言いようもない安堵を覚える。
ああ、彼だ。
友貴人が、電話の向こうにいる。
たったの10日間だったのに、彼の声を一日中聞かない日が続くだけで、自分がこんなにも不安に苛まれる体質になっていたなんて、ちっとも知らなかったのだ。
「うん、私だよ」
『ああ、良かった……出てくれて』
別れようと切り出したのはそっちなのに。好きな人ができたと言って———しかもそれは多分私の親友で、その上のこのこ電話を掛けてくるなんて、怒っていいと後輩の菜々子に私の方が怒られるかもしれない。そんな状況なのに。
「友貴人、どうかしたの」
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