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「束縛……ね」
昨日家に帰ってから花瓶に挿しておいたササユリが、目に入る。
窓辺に置いたそれは、一輪だけだとなんだか頼りなくて少し淋しい。
花屋の店員さんも言っていたけれど、ササユリは栽培するのが難しいだけでなく、花を咲かせてから10日程しかもたないらしい。
「大変ねぇ……」
花を咲かせるまでに何年もかかるのに、寿命すら短いだなんて。
「自由に、生きられないのね」
土の中で長い間ひっそりと生きを潜めて生きている。
大丈夫、いつか外に出られるから。
そう信じて芽を出してから、さらに数年待つ。
ゆっくりと成長し、葉をつけ、ようやく花を咲かせる。
花が開いてようやく外の世界がどんなに広いか知れるのに。
やっと自由になったと思ったら、すぐに死んでしまうのだ。
そんなササユリのことを、私は不憫で仕方がないと思う。
自由になれたらいいのに、とも。
「由梨ー? いる?」
コンコンコン、とドアを三回ノックする音が聞こえて、私ははっと後ろを振り返る。
「なあ、鍵閉めてんの? 俺が家にいる間はしめちゃだめだって言ったよね?」
ガチャガチャガチャと、何度ものドアノブを動かす音が嫌にうるさく聞こえる。
「ごめん、今開けるから、ガチャガチャするのやめて」
呆れ声で部屋の扉の鍵を開けると、弘志の顔が間近に現れて、私は思わずひゃっと小さく悲鳴を上げた。
「もう、由梨ってば、何回言っても聞かないんだから」
彼のため息が、私の気持ちを一層重くする。
私は自分が、ササユリみたいだと思う。
思えば昔付き合っていた男も、私を常に自分の近くに置いておきたいと思うような人だった。
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