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大木町総合病院はここらで一番大きな病院として、軽傷患者から重症患者までが入院できる病棟・病室が完備されていた。
彼はその、重症患者が入院しているA棟で、検査を受けていたらしい。
昨日公園に現れなかった彼が電話をくれたのがきっかけだった。
昨晩、本来なら彼も普通に会社に行き、翌日の土曜日———つまり今日病院に行く予定だったという。
しかし会社に行く途中で体調が悪くなり、病院に向かった。
そこからはずっとここにいるのだと。
私が寒い中公園で待っている最中に病院で眠っていた彼が目を覚まし、慌てて私に連絡した。
約束を守れなかったことへの謝罪と、明日病院に来て欲しいという連絡だった。
約束も何も、私の一方的な押し付けなのに、彼は私のことを気に病んでいたのだ。
私は彼に言われた通り、昨日はそのまま家に帰り、今朝病院にやって来たというわけだ。
彼の病室は個室で、窓から見える海が心を穏やかにしてくれる、そんな部屋だった。
「俺はあと、半年しか生きられないらしい」
その部屋に感心しながら、寒いので窓は開けずに外の景色を眺めていた時、信じられないことを彼は平然と口にした。
いや、平然なんかじゃないはずだ。
けれど少なくとも今彼の病気の事実を聞かされた私にとって、そのあまりに客観的な言葉に、歯がゆさすら覚えた。
「あと半年……」
半年。
その期間が、一体どれほどの長さだったか、私は思い出すことができない。ただ無期限に淡々と一日を過ごしている人間にとって、半年という区切りを意識できないからかもしれない。
「そう。ちょっと癌が進んでるみたいなんだ。治療はするけれど、恐らく俺は助からない」
彼がなぜ、他人事みたいに自分の命の短さを語れるのか、私には分からなかった。
それに、目の前の彼はベッドに腰掛けているとはいえ、ひどい病魔に襲われていると断言できるほど、弱り切ったようには見えないのだ。それ以上に、しゃんとしているようにすら感じられる。
「病気が分かったのは、茜と別れる一週間前だった。ちょうどもうすぐ茜の誕生日だっていう時に」
そう言う彼はどこか悔しそうに眉をひそめている。
そんな彼を見て、私はズキリと胸が突かれたように痛かった。
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