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「本当は、茜と別れたくなんかなかった。ずっと一緒にいたい。せめて茜の誕生日だけでも、変わらずに祝ってあげたい。この先もずっと一緒にいると思わせたい。できればその先の———結婚だって、俺は本気で考えていたんだっ……」
いつの間にか私と同じように、彼が悔しそうに涙を流していた。
別れを知ってもなお、私の誕生日だけはきちんと祝ってくれた彼。
結婚を考えていたという告白に、私は今まで流していた涙を塗り替えるかのように、後から後から溢れ出る涙を止めることができない。
窓の外で、冬晴れの空が海とコントラストをつくっている。とても綺麗だと他人事のように思う。
そうだ。
他人事だ。
空や海がどんなに綺麗だって、外の寒さが身体を震えさせたって、今この瞬間命がどんどん削られている友貴人にとって、全て他人事じゃないか。
それならば私が彼にかけられる言葉は一つしかない。
苦しみに気づいてあげられなくてごめんなさい。
冬子と好き合っているなんて勘違いして勝手に傷ついてごめんなさい。
そんな謝罪の言葉なんかじゃなく。
私が今彼にしてあげられること。
「もういいよ。友貴人はもう苦しまなくていい」
それはきっと、彼を許して一緒に苦しみを共有することだ。
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