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「遅くなってごめん、冬子」
2月25日。
日曜日の昼間に久しぶりに冬子と会う約束をしていた。と言っても、私は前に一度友貴人と彼女が一緒にいるところを見てしまったため、久しぶりという感覚がない。しかしそれを抜きにすれば、一年ぶりぐらいじゃないだろうか。
近いといっても、隣の県。やはりわざわざ休日に会いに行くには少しばかり時間とお金がかかるため、卒業してからは二人で会うのが3ヶ月に一回になり、半年に一回になり、こうして一年に一回会うか会わないかという関係になってしまった。
歳を重ねるにつれ平日は責任の重い仕事を任されるようになり、休日に元気に友達と遊ぶことが減っていたのが事実だ。
しかしそれでも、こうして一年に一度は絶対に親友と会うことにしていた。ルールなんかではないけれど、二人の間で絶対に途切れさせたくない糸を結んでいるのだ。
「茜! 久しぶり」
私たちの会話はいつも、「久しぶり」から始まる。
大学を卒業してから今まで何回も唱えてきた言葉だ。
「久しぶり」を聞くと、「ああ、冬子だ」と親友に会えた喜びで胸がいっぱいになる。
「久しぶり。待ったよね?」
待ち合わせのカフェで待っていた彼女は、この間見かけた時と同じで相変わらずの美貌を放っていた。
「ううん、全然。私も今来たとこだったの」
首につけたルビーのネックレスがきちんとそこにあるのか、自分で触って確認しながら彼女の前に座る。
22歳で結婚したいと言った彼女は、私と同じで今も独身。けれど彼女の左手の薬指にはダイヤの入ったプラチナの指輪がはめられていた。
冬子には、2年前からお付き合いしている男性がいる。職場で出会ったそうだ。堅実で優しそうな男性。私も何度か写真で見たことがある。相手はきっとその人だろう。
22歳という年齢は、子供の頃の私たちにとってはうんと背伸びしても届かないくらい大人だった。大人だけど、若くてキラキラしていて、美しいままの姿で結婚もしている。それが普通だと思っていたのだ。
しかし大体の人間が気づくように、私たちもそれが事実と違うことを知る。22歳は大人なんかじゃない。大人だけれど、もっともっと大人の世界があり、多分それは29歳の私たちにも変わらずに存在している。
そういうことに、今更気づいたのだ。
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