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「プロポーズ、されたのね」
「……うん」
彼女は眉を下げて微笑む。切ない画に見えるのに、なぜか美しい。それは、彼女の心を映しているから。
「おめでとう」
「ありがとう。でも、茜が大変な時に———」
彼女はきっとこう思っているに違いない。
「友貴人の病気を知りながら、私と友貴人が一緒になれないことを知りながら、自分だけが幸せになるなんて」と。
冬子の気持ちがよく分かった。
もし私たちの立場が同じだったら、たぶん今の彼女と同じように、私も手放しで自分の幸せを喜べないだろうから。
けれどそれは間違いだ。
私は冬子に、幸せになってほしい。
「冬子、私は一瞬でもあなたと友貴人の関係を疑ってしまったの。それを謝りたかった。本当にごめんね」
冬子は、「え?」となぜそんなことを謝るのか分からないというように困った表情になる。
「この間、ちょうど一週間前くらいかな。友貴人と冬子がカフェで一緒にいたところを見たの」
「ああ、あの時」
友貴人が「好きな人ができた」と言うものだから、すっかり心がささくれ立っていた私は、冬子と友貴人が二人きりで会っているのを見ただけで、彼女たちの関係を疑って勝手に傷ついていた。
彼女は私の親友なのに。
親友を疑うなんて、私はどうかしている。
そのことを心から詫びた。
でも、冬子は私の謝罪を受け取ってはくれなかった。
「それは違うわ、茜。あの時私は友貴人くんに『茜に内緒で相談したいことがあるんだ』って連絡が来て。友貴人くんから直接そんな連絡が来るのは初めてだったから最初は戸惑ったわ。でも、なんて言うのかな。LINEだったけれど、画面越しに彼の必死な様子が伝わってきたの。これはきっとただ事じゃない。茜に言えなくて、私に相談せざるを得ないような深刻な話なんだって思ったの。だから友貴人くんに会いに行った」
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