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とても寒い日だったわね。
今も寒いのには変わりないのだけれど、あの日は風も強くてお店に入ってからもしばらくの間、手がかじかんで動かなかったぐらいに。
「久しぶりに会った友貴人くんは、すっかり大人の男性になっていたわ。私も彼にはそんなふうに見えてるのかしら。とにかく、私が知ってる友貴人くんからだいぶ成長した姿を見て、なんだかほっとしちゃった。友貴人くんがこんなに大人になって、茜を守ってくれるんだって思ったから」
でもそのあと、彼の口から聞かされた言葉が、あまりにも衝撃すぎて……。
「あと半年しか生きられないんだって……茜にそのことを言うのが怖くて離れ離れになることにしたんだって……。まだ今なら間に合う。今別れさえすれば、茜は自分と死別しなくていいんだって。だから別れるんだって。大好きなまま、別れなくて済むように。だから協力してほしい。自分が死ぬまで、病気のことを茜に言わないでほしい。無理なお願いだっていうのは分かってる。ねえ、冬子ちゃん。俺がいなくなったあと、茜のことを頼むって……、それを伝えに来てくれたの」
「そんなことを友貴人が……」
「ええ……。私、震えながら首を振ったわ。頑張って縦に動かしたの。本当は『茜に内緒だなんてダメだわ』って言いたかった。真実を教えてあげてと言いたかった。でも、言えなかったの。だって友貴人くん、私以上にもっともっと苦しそうに震えてたから……。その時思ったわ。友貴人くんは、私が知ってる友貴人くんのままだって。優しくて茜のことが大好きな人なんだって。そんな彼を見てると、余計に苦しくなったわ……」
冬子の告白を聞きながら、私は必死にあの日のことを思い出していた。
あの日、冬子も友貴人も二人とも震えていたのだ。
衝撃や悲しみに襲われて、それでも我慢しなくちゃいけなくて、苦しんでいたのだ。
それを私は、ようやく理解したのだ。
友貴人の身を切られるような決断と、冬子の切ない想いに今更胸が締め付けられた。
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