第1話 束縛男と私のユリ

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大学時代、当時付き合っていた彼氏は、私の予定を逐一把握していないと気が済まない男だった。新学期が始まると、すかさず私の講義のスケジュールを聞いた。授業と授業の間の空きコマには絶対にお呼び出しがかかる。会いに行ったところでたいしたこともせずにただ空き教室で駄弁るだけだ。 ひどい時は、よほど私を縛り付けておきたかったのか、私が講義のある時間に、「授業には出ないで。俺が出席とっておくから」と私を講義に出させてさえくれないこともあった。 その彼とは社会人になって二年目のときに破局し、その後ずっと恋人ができない状態が続いた。 そうしてようやく再び恋人ができたのが、ちょうど一年前。 今付き合っている加藤弘志だ。 あまりに長い間恋人ができなかったため、もう恋なんて一生できないかもしれないと諦めかけていた時期でもあった。世間的には20代半ばなんて、まだまだいくらでも恋愛のチャンスがあると思われる年齢だが、日々の仕事に追われているうちに、新しい恋に向き合う暇がなかったのだ。 しかしどういうわけか一年前、弘志に出会ってから、私はすぐに彼に恋をしてしまった。 その日は確か、昼間の仕事で大失敗をしてずいぶんと落ち込んでいた日だ。 商品の発注ミスだなんてあまりに初歩的な失敗をし、面目は丸つぶれ、後輩の顔なんてとても見られたもんじゃない。 そんな日に、私は同じ部署の女性の先輩に飲みに誘われたのだ。 「笹塚(ささづか)、今晩付き合ってよ」 あんなことがあったから、きっと先輩が私のことを気遣って声をかけてくれたのだと思った。普段はあまり夜飲みに行くような人間でもない私だったが、先輩からの誘いに「はい」と二つ返事で了承した。
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