2 笑い話

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 2 笑い話

「まあ、もう終わったことだからどうでもいいですね。さあ、フェイと話もできたし、冷えてきましたらから部屋に帰りましょうか」  ミーヤが怖い笑顔のままそう言うとくるっと向きを変えてとっとと前の宮に向かって歩き出す。いつもより歩く速度がかなり早い。 「おいー……」  そう言ってトーヤがフェイの前に座り込む。 「帰らないんですか?」 「帰るのがこわい……」 「じゃあ先に帰りますね。さあダルさんも帰りましょう」 「あー……」  ダルが気の毒そうにトーヤを見ながらリルと並んでミーヤの後を追う。 「って、ダル様じゃなくてダルさん?」  トーヤがそこに気づいてふとリルとダルを見ると、友人としてだろうが仲良さそうに話をしながら歩いていくのが見える。 「ちょ、俺、託宣で呼ばれた客人、シャンタルの助け手じゃねえのか? なんか最近不遇(ふぐう)じゃね? な、フェイ、どう思う?」  フェイの墓標にそう話し掛けると、どこかで小鳥が楽しそうに鳴く声がした気がした。  トーヤは3人から少し遅れて1人で前の宮の自室へと戻った。  ダルは自分の部屋に戻っているのか、それかまたどこかへ行ったのかは分からない。なんとなくダルの部屋を覗く気にもなれなかった。  そっと、自分の部屋ではあるのだが、なんとなくそっと遠慮するように扉を開く。さすがにノックはしなかった。  そお~っと中を覗くとどうも誰もいないらしい。  ホッとするような、さびしいような気持ちで中に入って扉を閉める。  ドサッと身をベッドの上に落とす。 「なんだよなんだよなあ、あの時はしゃあなかったんだよ。そんな下心でリルにあんなこと言ったわけじゃねえっての。それも知らねえで、なあ、勝手なことばっかり言いやがって、あいつら……」 「何を知らないんですか?」 「うわあっ!」  ミーヤの声にトーヤがベッドの上で飛び上がった。 「な、な、な」  ミーヤとダルとリル、3人でベッドの向こう側に立っている。 「な、おまえら、なに」  びっくりし過ぎてそれ以上の言葉が出ない。 「この間の仕返しにカーテンの影に3人で隠れてたんですが」 「仕返しって……」  なんなんだ、この宮では今仕返しがはやってるのか? そんなことをトーヤは考えていた。 「それより、何があってあんなことしたんですか? 何かあったってことなんですよね?」  リルがズバリと聞く。 「えっとな……」  さあ、さあ、さあさあさあさあ!  3人がずずずいっとトーヤに迫ってくる。 「もう、しゃあねえなあ……」  トーヤはもういいか、と素直に当時の理由を話す。  キリエがトーヤの様子を報告させるためにリルをつけたと考えて、あえて嫌がって逃げるようなことを言ったこと。リルを退散させたはいいが、その後は一日中キリエがいていたく疲れたこと、を。  話を聞くと3人が思い切り吹き出した。 「なんだよ、何がおかしいんだよ、え」  トーヤが憤慨(ふんがい)しながら言う。 「大体な、なんか最近待遇わりいぞ、俺。こんなに一生懸命やってるのに、あっちでもこっちでも笑われてる気がする」 「ごめんなさい」  笑いながらミーヤがそう言って謝る。 「なんだよ、謝るぐらいなら笑うのやめろよな」 「だって……」  笑い過ぎて泣いてるのを見て一層トーヤがすねた顔になる。 「だって、あの頃は確かにそうだったなと思うと、なんだかおかしくて」 「ええ、本当」    リルもそう言って笑う。 「確かに私はキリエ様からトーヤのことをよく見て報告するようにと言われていたわ、そういえば」 「私も毎日報告するように言われていて、それがもうつらくて」 「分かるわ~」     2人の少女がそう言って笑い合うのを見て、トーヤがますます膨れ面をする。 「分かるわ、じゃねえよ!」 「ごめんなさい、でも、あの頃はこんな日が来るとはとても思えなくて」  ああ、そうだった。  生贄にされるのではと言ったトーヤに守ると言うために、わざと夕飯をばらまいたこともあった。 「あの頃は真剣だったのに、笑えないようなことばかり続いたのに、今はこうして……」  ミーヤがまだ泣きながら笑う。  と、いきなりトーヤも大声で笑い出す。  今まで笑っていた3人が思わず動きを止めてしまうぐらい激しく笑っていた。 「いや、いや、本当だな、本当、笑い話になっちまったよ」 「トーヤ、大丈夫か?」  ダルが心配そうにそう聞く。 「いやな、違うんだよ、いや、本当だな、じいさん」  そうしてダルの祖父、カースの村長に言われた言葉を3人に伝える。 「ってな、なんもかんも結果次第だってダルのじいさんに言われたんだよ」 「じいちゃんがそんなこと」 「ああ、人間、結局は今できることをやるしかできねえんだよな」 「そうか」 「だから、後悔した時は少しだけ自分を許してやれ、そう言ってくれたんだよ」 「いい言葉だわ……」  リルが少しうるっとした目をしながら言う。 「本当ね」  ミーヤも少し潤んだ目で相槌を打つ。 「本当だなあって今つくづく思うよ。だから、俺はシャンタルを無事に助けてこの国から出て、そしてまた戻ってくる。そうして思いっきり笑ってやる、笑い話にしてやるよ。そう決めた」 「そうだな、その時はまたこうして4人で大笑いしようぜ」  トーヤの言葉にダルも笑ってそう答え、4人でまたひとしきり笑った。
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