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念のため中に入り、部屋の内部を確認したが、当然稜の姿はない。
慌ててスマホを取り出して、懐かしい稜の番号を探して電話をかける。だが、いつまで経っても応答がない。
何度も何度もかけ直す。
それでも全く反応がない。
これじゃ、どうやって稜に会ったらいいんだ……。
結果はどうだっていい。
ただもう一度稜に会いたい。
会って話がしたい。
このままじゃいられない。後悔が残らないように。
一心不乱。他に術がないので再び電話をかけようと——。
「健人」
その声の方に振り返ると稜がいた。
「稜!」
その姿を見ただけで、一瞬にして心があの頃の自分に回帰する。
「なぁ、お前んち、空っぽじゃん。びっくりしたよ。いつの間に引っ越ししたんだ? 今どこに住んでる?」
「よく言うよ。先に消えたのはお前だろ」
稜からの蔑む視線。稜の言う通り、何も言わずに姿を消したのは健人だ。
「あの時の俺の気持ちがわかったか?」
あの時——。健人が稜に黙って引っ越しを決めた日のことか。
「お前んちのドアを開けたらさ、なんにも無いんだぜ? 電話にも出ないし、LINEの返事もない。お前、酷すぎるぞ。俺と別れたいならはっきり言えよ。あんな最後は嫌だった……」
稜はうつむいている。今にも涙が溢れそうな潤んだ瞳を綺麗だと思ってしまう。
「ごめん……。あの時はああするしかお前から離れるやり方がわからなかったんだ……」
稜のことをどんどん好きになっていた。それなのに稜には彼女がいる、身体は重ねても俺に心は無いんだと辛くて逃げ出したかった。
「で、何? もう俺のことなんて興味ねぇだろ。なのになんでここに来た?」
「そうじゃない。今もあの時もそうじゃないんだ」
「は? 何言ってんの?」
「俺は……お前には彼女がいるって思ってたから、俺だけ本気だなんて辛くてさ、それでお前から離れたかったんだ……」
「え。俺とお前って、付き合ってたんじゃねぇの?」
「付き合ってなんかないだろ」
「いや、だって散々やりまくってたのに?!」
「そうだよ。付き合ってくれだなんて言われたこともない……」
「でも俺、お前に好きだって言った」
「伝わらないよ。お前には美咲ちゃんがいたんだから……」
二人は学内公認の有名カップルだったくせに、どうやって健人が自分が本命だと信じられたと言うのか。
「マジで? じゃあお前は俺のこと、恋人とは思ってなかったってことか?!」
「そうだよ。セフレだと思ってた」
「セフレ?! そんなことあるわけない。俺はお前が好きなのに?!」
ずっと濁してきた。二人の関係をはっきりさせるのが怖くて触れずにいた。でも蓋を開けてみれば、腹を割って話してみたら、両想いだったのか……?
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