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会いたい
数日後。
来てしまった。稜の部屋に。
普段は健人の部屋ばかりで過ごしていたので、稜の部屋に来たのは数回しかない。それでも懐かしい場所を訪ねて昔の思い出が蘇ってくる。
◆
「健人。よく来てくれたな。今日は二人で鍋でもつつこうぜ。あ、今日は泊まっていってくれる? 俺、健人が隣にいないとうまく眠れねぇから」
初めて稜の部屋を訪ねたとき、稜は慣れない料理をしたり、健人の好きなアイスを買っておいてくれたり稜なりに全力で健人をもてなしてくれた。
「この部屋にきたことあんのは健人、お前だけだよ。他の奴は誰も。美咲……? こんな汚ったねぇ野郎の部屋に呼ぶわけねぇよ」
彼女に見栄を張っているのかなと勝手に思っていた。でも稜の部屋は綺麗だったし何を恥ずかしがってるんだとあの時は理解ができなかった。
「健人、お前さ、卒業したら引っ越しすんの? また一人暮らし? 俺、お前んちの隣に住みてぇな。てか、一緒に暮らす?」
稜に未来の話をされて「冗談はやめろ」と即座に言い返した。あの時の健人には稜と生きていく未来なんて想像できなかったから。
◆
意を決してインターフォンを鳴らす。だが何も反応がない。
昔、「お前が合鍵くれたから、俺の部屋のもやるよ」と言われて、稜から合鍵を貰っていた。貰ったっきり一度も使っていなかったが、今初めてそれを鍵穴にさす。
ガチャリと手応えがあり、ドアノブに手を掛けた。
「稜……?」
そっとドアを開けて、部屋を見て健人は目を見張った。
部屋はもぬけのカラだった。
空っぽの部屋。そこにはもう何もない——。
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