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「健人、ごめん。そんなふうに思ってたなんて……。だからお前は消えたのか……」
稜は切なそうに健人を見つめている。
「美咲のことをお前に黙ってた俺が悪いんだな。言わなくてもお前は俺を受け入れてくれたから、なんか話すタイミングを失ってさ。それにお前、口軽いしな。特に酒が入ると危険だ。正直にペラペラなんでも喋るしな」
「おいっ!」
黙ってはいられない。急に俺をディスりやがって。
「今さら言うが、俺と美咲は偽物の恋人だったんだ」
その話は美咲から聞いた。それを稜が健人に伝えなかったせいでこんな事態になった。
「でも俺はお前に話そうと思ってたんだよ。お前がいなくなったあの日の夜に」
随分と都合がいい話だなと猜疑的な気持ちになる。
「あの日、俺は美咲の彼氏に会ったんだ。それで美咲が大学卒業と同時に入籍することにしたから、もう擬似恋人をやめていい、今まで美咲を守ってくれてありがとうとまで言われた」
そうか。引っ越しがあと一日でも遅ければ健人は、稜と美咲の秘密を知り得たところだったのか。
「で、俺は美咲の彼氏に『俺も内緒の恋人がいたから都合が良かった』って話した」
稜の内緒の恋人というのは、
まさか。
「俺は女には全く興味が湧かない。てか今までの人生で俺が好きになったのは、健人、お前だけだ」
信じられない。
やばいぞ。嬉しくて泣きそうだ。
「俺はお前にあんなにキスしたのに、それでも俺の気持ち、わからなかったのか……?」
「わからなかった……。どーでもいいやつって思われてるかと……」
今だってまだ実感がない。セフレじゃなかったなんて……。
「ごめんな。気づいてやれなくて……」
稜は優しく頭を撫でてきた。
「俺の前から勝手に消えたお前を責めてやろうと思ってたのに、全部俺のせいだったんだな。これじゃお前を責められない」
「責めてくれていい」
さっき空っぽの部屋を見て、稜に連絡も取れなくて、寂しかった。辛かった。稜にそんな仕打ちをしてしまったことは申し訳ないと思う。
「責めないよ」
稜はやさしく微笑んだ。
「だって、俺に本気だったからこそ辛くて逃げたんだろ? それってお前は俺のことを好きだって思っていいよな?」
今度は悪戯するときみたいな笑みに変わった。こいつは昔から俺の心の中にズカズカと侵入して、本音を言い当てるようなタイプだ。
「いーや、俺はお前がいなくなっても結構楽しく過ごせてたんだ。だからもうお前のことなんて——」
「好きだから、会いに来てくれたんだろ?」
言い終わらないうちに言葉を重ねられてしまった。
「調子に乗んなっ」
「俺ね。素直じゃない健人、大好きだ」
このクソ野郎……。
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