会いたい

3/4
前へ
/22ページ
次へ
「健人、ごめん。そんなふうに思ってたなんて……。だからお前は消えたのか……」  稜は切なそうに健人を見つめている。 「美咲のことをお前に黙ってた俺が悪いんだな。言わなくてもお前は俺を受け入れてくれたから、なんか話すタイミングを失ってさ。それにお前、口軽いしな。特に酒が入ると危険だ。正直にペラペラなんでも喋るしな」 「おいっ!」  黙ってはいられない。急に俺をディスりやがって。 「今さら言うが、俺と美咲は偽物の恋人だったんだ」  その話は美咲から聞いた。それを稜が健人に伝えなかったせいでこんな事態になった。 「でも俺はお前に話そうと思ってたんだよ。お前がいなくなったあの日の夜に」  随分と都合がいい話だなと猜疑的な気持ちになる。 「あの日、俺は美咲の彼氏に会ったんだ。それで美咲が大学卒業と同時に入籍することにしたから、もう擬似恋人をやめていい、今まで美咲を守ってくれてありがとうとまで言われた」  そうか。引っ越しがあと一日でも遅ければ健人は、稜と美咲の秘密を知り得たところだったのか。 「で、俺は美咲の彼氏に『俺も内緒の恋人がいたから都合が良かった』って話した」  稜の内緒の恋人というのは、  まさか。 「俺は女には全く興味が湧かない。てか今までの人生で俺が好きになったのは、健人、お前だけだ」  信じられない。  やばいぞ。嬉しくて泣きそうだ。 「俺はお前にあんなにキスしたのに、それでも俺の気持ち、わからなかったのか……?」 「わからなかった……。どーでもいいやつって思われてるかと……」  今だってまだ実感がない。セフレじゃなかったなんて……。 「ごめんな。気づいてやれなくて……」  稜は優しく頭を撫でてきた。 「俺の前から勝手に消えたお前を責めてやろうと思ってたのに、全部俺のせいだったんだな。これじゃお前を責められない」 「責めてくれていい」  さっき空っぽの部屋を見て、稜に連絡も取れなくて、寂しかった。辛かった。稜にそんな仕打ちをしてしまったことは申し訳ないと思う。 「責めないよ」  稜はやさしく微笑んだ。 「だって、俺に本気だったからこそ辛くて逃げたんだろ? それってお前は俺のことを好きだって思っていいよな?」  今度は悪戯するときみたいな笑みに変わった。こいつは昔から俺の心の中にズカズカと侵入して、本音を言い当てるようなタイプだ。 「いーや、俺はお前がいなくなっても結構楽しく過ごせてたんだ。だからもうお前のことなんて——」 「好きだから、会いに来てくれたんだろ?」  言い終わらないうちに言葉を重ねられてしまった。 「調子に乗んなっ」 「俺ね。素直じゃない健人、大好きだ」  このクソ野郎……。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1135人が本棚に入れています
本棚に追加