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「なんでいるの? てか、それ俺の服……? え? どゆこと?」
まさか誕生日サプライズを仕掛けようとしていたとは言えない。だってプレゼントも用意してなければ、ケーキも料理も何もできてないのだから。
「いや、あのさ、研修が思ったより早く終わってさ、職場から稜の家のほうが近いしちょっと寄らしてもらったんだ」
「へぇ。健人の会社の新人研修はスーツじゃなくていいんだ」
稜は健人がさっき脱ぎ捨てたTシャツを見て言う。
「そ、そうなんだ……今日だけは、ね……」
苦しい。苦しすぎる言い訳だ。
「キッチン、使ったんだ」
「あ、あの、腹減ったからなんか作ろうと思って……ごめん勝手に使わせてもらってる……」
「いいよ、健人なら俺んちを自由に使ってくれて構わない。そのために合鍵渡してんだから。でも、健人がわざわざ料理?」
「べっ、別に稜のために作ろうとしたんじゃない。俺が食べたくてさ」
「作ったものはどこ?」
「へっ?」
まさか失敗作を稜にお披露目するわけにはいかない。
「冷蔵庫?」
「いや、もう食べたっ!」
稜が冷蔵庫のドアを開けるのを阻止したかったのに、一歩間に合わず、中を見られてしまった。
「なにこれ」
冷蔵庫の中にはケーキもどきの食べられるかどうかわからないものと、ただ野菜を切っただけのサラダ、焦げたハンバーグかもしれないものが入っている。
「なんでもない。なんでもないからっ。それ捨てようと思ってたやつ!」
「健人、お前さぁ、キッチンめちゃくちゃじゃん。何をどうしたらこうなるんだよ」
痛いところを突かれた。片付けが間に合ってなかったのだ。勝手にキッチンを使われて、こんなにめちゃくちゃにされたら怒っても当然だ。
「……ごめん、今から片付けるとこ」
結局、稜のために何もできなかった。お祝いどころじゃない。キッチンと部屋を汚して勝手に服まで借りただけの迷惑な奴になっただけ。
——何やってんだ、俺。
健人が、大量の洗い物に手をつけようとしたとき、稜に身体を引っ張られる。
「えっ?」
健人が振り向いた途端に、稜に唇を奪われた。
完全に、不意打ちのキスだ。
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