さよなら、稜

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 稜に彼女がいることは初めから知っていた。大学のミスターとミスコンに選ばれたほどの美男美女の二人なのだから、有名なカップルだった。  稜とは最初はただの友達だった。それなのに「家に帰るの面倒くせぇ」と稜が健人の部屋に入り浸るようになり、そのうちに稜は大学に近いからと健人の部屋を宿代わりにして頻繁に泊まっていくようになった。  ある日の夜のことだ。  稜と二人で風呂上がりにビールで乾杯。そこからいつもどおりにベッドをソファ代わりにして座り、たわいもない話をしていたときだった。  つまり、前触れなんか、なかった。 「な、健人。お前にキスさせろよ」  酔った勢いなのか、稜が急に抱きつき、健人に迫ってきた。 「ふざけんなっ、嫌に決まってんだろっ」  どうしたんだよ稜は!  健人は慌てて抵抗したが、稜の突飛な行動に不意をつかれてしまった。  稜に頭を押さえつけられ、そのまま稜は無理矢理に健人の唇に自分の唇を押しつけてきた。 「何すんだ! ぶっ殺すぞ!」  最悪の男だと思った。  強引にキスを奪われて健人は涙目になりながらも稜をキッと睨みつける。 「健人。お前、俺のこと好きだろ?」  見透かしたような顔で稜に言われてドッドッと鼓動が急に高鳴った。  え……?  なんで。  なんで、俺の気持ちがこいつにバレてるんだ……?  稜には彼女がいる。稜は友達だと自分に言い聞かせてずっと心の深海に閉じ込めていた想い。  それが、なぜ……? 「驚きすぎだろ。俺が気付かないとでも思ってたのか?」  ああ、最悪だと目の前が真っ暗になる。 「お前、わかりやす過ぎなんだよ。いつも俺を熱っぽい目で見やがって」  そうだったのか……。バカだな、俺。 「でも、安心しろ」  稜は驚きのあまりに無防備になっていた健人を抱き寄せる。 「俺もお前が好きだから」  そして健人に再びキスをした。
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