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秘密
引っ越ししてから、数ヶ月。
稜からの連絡はぱったりと途絶えた。
きっと稜も、健人のしたことの意味を理解したのだろう。二人の不毛な関係はこれで終わりだ。
意外にあっさり終わったな。
そして稜のいない毎日にも順応出来ている自分のたくましさに驚いた。最初の頃こそ泣いた夜もあったが、今ではそんな感情も芽生えてこない。人間は忘却の生き物だから。
「なぁ、健人、聞いたか?!」
授業を終えたところで、友人の直樹が話しかけてきた。
「何を」
「稜と美咲だよ。あの二人、別れたらしいぜ?」
稜の名を久しぶりに聞いた。
「へぇ。お似合いだったのにな」
心にもないことを言ってみる。みんなはそう思ってるだろうから。
「なんか稜が振られたらしい。美咲はたくましいよ、もう次の男と付き合ってる」
「へぇ」
「さらに美咲は卒業と同時にその次の男と結婚するらしい。すごくねぇ?」
「確かにすごい話だな」
稜と美咲。二人の関係は健人にはわからない。稜を振ってすぐに次の男を見つける美咲のしたたかさ。本当に稜のことを好きだったのかと、美咲の気持ちを疑ってしまう。
「稜、落ち込んでんじゃねぇのかなと思って。健人って稜と仲良かったよな? 何か稜から聞いてねぇの?」
「聞いてない。最近あいつに会ってないから」
「そうか……。ま、稜なら優しいしかっこいいからすぐにまた良い相手見つかるよな!」
本当だよ。稜よりいい奴なんて俺は知らない。
稜は今どうしてるんだろう。
美咲に振られて、俺とも関係を断ち切られて、柄にもなく落ち込んでるのかな……。
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