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「私と稜は偽物の恋人同士だったんだ」
「え?!」
美咲の意外な告白に思わず声が大きくなってしまった。
「私が稜に頼んだの。私が泣いてたから同情して恋人役を引き受けてくれたんだよ。稜って優しいから」
稜が、偽物の恋人役……?!
「な、なんでそんなことを?」
「私ミスコンのグランプリに選ばれてから、毎日のように色んな人に言い寄られちゃって、ちょっと疲れちゃったの。ストーカーみたいな人もいて、かなり参ってたんだ」
下手な芸能人よりも美人な美咲は確かにものすごくモテていた。平凡にはわからない美人ならではの悩みなのだろうが、聞く人が聞いたら嫌味にしか聞こえないような内容だ。
「ある日ね、ストーカーくんが大学の廊下で突然私に抱きついてきた事件があってね、その時に助けに入ってくれたのが稜だったの」
稜らしいなと思う。稜はいつも困ってる人を放って置けないタイプの人間だから。
「そこで、怖くて泣いてる私を慰めてくれて、親身になって今後どうしたらいいのか一緒に考えてくれたんだよね。稜もすごくモテるから、私の気持ちわかってくれたみたい。その時に私と稜が出した結論が、二人で『擬似カップル』になろうってことだったの」
美男美女、お互いモテる者同士だ。確かに恋人がいれば言い寄る奴は激減するだろう。
「でも、偽物じゃなくて本当の恋人を作ればよかったんじゃないのか?」
美咲ほどの女なら、いくらでも本物の恋人が出来るんじゃないかと思う。
「それがね、健人くんだから話すけど、私には実はずっと付き合ってる人がいて、でもその人はテレビに出てる有名人で内緒にするしかなかったの……」
「え?! 誰?!」
ごめん、美咲ちゃん。俺はその相手の有名人が誰か無性に気になる。
「もうすぐわかるよ。私が大学卒業したら結婚発表する予定なの」
そう話す美咲はとても嬉しそうだ。やっと念願叶って好きな人と堂々と人前で過ごせるようになるのだから。
「私の彼氏には、稜のこと最初からちゃんと説明したよ。稜は擬似恋人で、結婚発表が近づいたら別れることにするからって。ちなみに稜は会ったことあるよ、私の彼氏に」
「そうなのか……。俺、稜からはそんな話何にも聞いたことなかったな……」
「で! 私がなんでこんなことを健人くんに話にきたのか、わかった??」
美咲は急にキッとした視線で説教モードだ。
「稜のためだよ。みんなに嘘ついて偽物の恋人を演じてくれて、別れる時期になったら『俺が振られたことにしよう』とか言っちゃって、私は無事に結婚できそうだけど、稜は……」
美咲は申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんね、私は稜と健人くんの仲に気がついちゃったの。私達が擬似恋人になるってなったときに、稜は『俺もその方が都合がいいから』って言ったんだ。稜も私みたいに公にできない恋人がいるのかなってその時に思って、その後の二人を見てたらなんかピンときちゃって……。でも稜は認めなかったよ。健人くんのことは友達だって言ってた」
友達。セフレ。恋人。稜は俺のことをどう思ってたんだろう……。なんだかわからなくなってきた。
「稜に会ってよ。それとも健人くんはもう稜のことなんてどうでもよくなっちゃったの……?」
そんなこと、あるわけない。
だって俺は稜にはれっきとした彼女がいて自分はセフレだと思っていたから、それが辛くて稜の前から消えたんだ。
でも美咲と稜は擬似恋人だった。だとすると、あの時の稜は本当に俺だけを好きでいてくれてたのかもしれない。
だったら。
でも——。
俺は逃げた。何も言わずに突然、稜の前から消えた。
その仕打ち、稜は許してくれるのだろうか。
でも。
でも。
頭の中はデモデモダッテの繰り返しだ。堂々巡り、どうしたらいいのかわからない。
「健人くん、お願い。稜をひとりにしないで……。きっと稜は待ってるよ。私はそう信じてる」
美咲に言われてハッとする。
俺を許すも許さないも選ぶのは稜だ。
稜に会ってこっ酷く拒否られるか、許されるのか、はっきりしてみたい。
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