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それから4人は無心でロケットの組み立てに取り組み、エネルギーの補給のため街を駆け回った。 一度組み立てたということもあり、かかった時間はおおよそ二時間程。
幸いなのか、何故か巨人はその間一度もやってくることはなかった。 初めは熱心に観察していたというのに。
「完成したぞ!!」
「宇宙へ行くのは厳しいけど、ただ飛び立つだけならそれ程エネルギーを使わないからいけそうだな」
「そうだね! だけど地震の頻度がだんだん増えてきているから怖かったよ」
「巨人が来なかったのって、地震で避難しているからだったりして?」
「有り得るが推測したところで仕方がないさ。 それより早く乗り込もう」
エネルギーを補給し4人はロケットに乗り込んだ。
「じゃあ出発するぞ!」
4人の乗り込んだロケットが離陸を始める。 今は巨人の姿はない。 しかし完全に順調とはいかなかった。
「何となく浮力が弱いというか、遅い気がしないか?」
「やっぱりエネルギーが足りなかったんじゃ・・・」
「いや、エネルギーは満タンになっている。 もしかしたら機体のダメージのせいなのかもしれない」
ただ離陸初めは遅かったロケットもある程度の高度を確保すると通常の速度になった。
「よし、これならいける!」
「ちょっと待って・・・! 行くってどうするの?」
佳与が言っていることが何かは視線の先を見てすぐに分かった。 ミニチュアハウスからは出られたがドアが閉まっていて、部屋から出られるような場所がなかったのだ。
「おいおい・・・。 一度降りて開けにいくか?」
「あんな大きなドアを開けれるわけがないだろ」
「じゃあ運否天賦で突っ込んでみるか?」
「そんなの無理に決まっている・・・」
折角ロケットが動いたというのに万事休す。 のはずだったのだが、都合のいいことにドアが開き始めたのだ。
「超ラッキーじゃん! 今のうちに行こ行こ!!」
「やっぱり俺たちって幸運の女神でも付いているんじゃね!?」
しかし当然であるが、何もなしに偶然ドアが開くはずがなかった。
「巨人・・・!」
開いたドアの先には当然のように巨人が立っていた。 しかも一人でなく三人。 間を縫うように飛んでいくのもまず無理で、捕まってしまうのは明らかだった。
「終わった・・・」
「でも私たちに危害を加えようとしているわけじゃないんだよね・・・?」
そう思ったのも束の間、巨人は血相を変えて浮いているロケットに向かって突っ込んできたのだ。
「うわぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁ!!」
もう一貫の終わりだと4人が諦めかけたその時だった。
「え、何なの・・・?」
家全体が激しく揺れ巨人たちは酷く動揺し始めた。 そのままロケットのことも忘れ、ドアの向こうへと走っていってしまったのだ。
「今まで起きた地震の中で一番大きかった。 一体何が起きているんだ!?」
「とりあえず行こう! 今が絶好の機会だ!!」
天都はロケットを操作し、開かれたままのドアを通り家の外に出た。 巨人はどうやら何かから逃げている様子だった。 天都は好奇心から高度を上げ何から逃げているのかを確認した。
そこで驚くべきものを見るのだ。
「これって・・・!」
大きな山の向こうには巨人の街が広がっていたが、凄まじい速度で流れてくる溶岩に巨人もろとも飲み込まれていく。 どうやら先程の揺れは前方に聳える大山が噴火した時の地震らしい。
―――これが今まで地震が多かった原因か・・・?
溶岩は街全てを飲み込むことはなかったが三分の一程の領域を赤く埋め尽くしてしまっていた。
「何なんだよ! 一体何が起きてんだ!!」
行定の悲鳴じみた声に反応したのはこの場にいる4人の誰でもなかった。
「星の終わりだよ」
「「「「!?」」」」
「すまんな、勝手にロケットに乗り込んで。 君たちをここへ連れて来たのも私だ。 重ねて謝罪しよう」
そう言って深く頭を下げる老人に見覚えはない。 だが言語が通じているところを見ると同じ地球人だと思えた。
―――やっぱりここには人がいたのか・・・!
「星が滅べば巨人も滅ぶ。 それをどうにか救えないかと画策し元の世界とのワームホールを開き活路を求めた。 結果としては成功だったが君たちには非常に申し訳ないことをしてしまったな」
「貴方は一体誰なんですか・・・?」
「君たちと同じ元地球人だよ。 多次元宇宙の研究から異空間を繋げる装置を作り出したのはよかったんだが、こちらの世界へ来て戻れなくなってしまったのだ。
恐らくは異空間における階層の問題だと思うのだが・・・。 それはいいか」
白衣を着た老人は一人ぶつぶつやっている。 見た目から完全に博士のように思えたため、天都は便宜上博士と呼ぶことにした。
「博士の言っていることって、俺たちももう元の世界に・・・」
「戻すことはできん。 すまない」
「そんな・・・ッ!」
そこで行定が吠える。
「ッ、ふっざけんなよ!!」
「行定・・・」
「こんな終わりゆく世界に連れてこられて元の世界へは戻せないだぁ!? ふざけるのもいい加減にしろ!! 一体何のために俺たちを連れ込んだんだよ! 道連れか!? 生贄か!? 答えろ!!」
「・・・」
天都は行定を止める気にはなれなかった。 天都も行定と同様に詰め寄りたいくらいなのだ。
「ロケットだよ。 巨人を逃がすためのロケットを作りたかったんだ。 今頃巨人のメモから設計図を書き私の研究所で宇宙船を組み立てている。
でもどうしても私一人の力では宇宙へ行けるようなロケットは作れなかったんだ」
「巨人さんは助かるの・・・?」
恵人が不安気な様子で尋ねた。
「・・・この星を脱出する目途は立った」
「じゃあ!」
「地球に住んでいて他の星に生命を観測することはできたか?」
「・・・!」
「できる限りの物資を積み宇宙へと逃げ出すことはできる。 しかしそれだけだ。 彼ら・・・。 いや、私も含めてだが行く当てがないんだ」
「じゃあいっそのこと宇宙船で生きていけばいいんじゃないか?」
「・・・あぁ、それしかないだろうな。 今超特急で計画を進めている。 そして君たちにも当然参加してもらいたい。 というより、参加するしか我々が生き延びる術はないんだ」
「そんなの勝手だよ・・・」
佳与の肩に天都は手を置いた。
「佳与、そう悲観することもないさ。 俺たちは何だかんだこれまで上手くやってこれたんだ。 この先も4人揃っていればきっと道を切り開いていくことができるはずさ」
「天都・・・」
「大丈夫。 何度も言うけど、いざという時は俺が身を挺してでもみんなを守るから」
こうして天都たち4人は博士や巨人たちと共に巨人の星を脱出することに決めた。 巨人たちとは意思の疎通ができるらしく、そのやり方というより言語を博士に教わった。
準備を万端に整えても帰る星を失えば運否天賦のような航行になるのかもしれない。 それでも限られた世界と力で彼らはこの先も道を切り開いていくのだ。
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