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運次第の宇宙旅行
2XXX年になり宇宙旅行は庶民にとっても身近なものとなった。 もちろん知識や資格は必要であるが、3Dプリンターを使った簡易ロケットのキットを使えば個人で日帰り旅行ですらできる程。
もちろんその費用は地球内での旅行程安くはないが、一般人でも十分手が届く。 革命的とも言えるエネルギー生産法の大転換があり、21世紀初頭から考えれば空想事と言われたレベルだろう。
「おはよー、天都! 最終確認中?」
大学生である天都(アマト)は宇宙が大好きだった。 他に宇宙好きな三人とサークルを作り、宇宙へ行くため勉強と資金の調達、資格の取得に明け暮れた。
クラウドファンディングや少々身体を酷使するバイトをし集まったお金が500万円。 そして今日は念願の宇宙へ飛び立つ日だ。
「あぁ、おはよ。 最安のモノだから宇宙へ行って帰って二時間くらいかな。 そのくらいなら持つと思う」
天都は佳与(カヨ)にそう返した。 身近になったと言っても、一般人では本格的な旅行が楽しめる程にはならない。 それに宇宙の危険性は相変わらずのため、国に許可を得る必要もある。
「本当に天都は頼りになるねー」
「それ程宇宙が大好きだということさ」
天都はリーダーでサークルの仲間は皆同い年で仲がいい。 まだ他の二人は到着してないようだ。
「というか、それを全てロケットへ持っていく気?」
「そうだけど?」
佳与は大きなボストンバッグを持っていた。
「いくら何でも荷物が多過ぎ。 最低限の量しかロケットには入らないよ」
「えー!」
「本当は二人分のロケットに4人で乗るんだから荷物は最小限で時間も短時間。 二時間が勝負だから」
資金をクラウドファンディングで集めた分、リクエストされた写真撮影や企画をこなさなければならない。 そのために必要なものを積めば余分な食糧すら積み込めなかった。
「おはよー、お二人さん! 来るの早いなー」
「朝から点検ありがとう」
話していると他の二人もやってきた。 ムードメーカーの行定(ユキサダ)と物静かな女性である恵人(ケイト)だ。
「三年間の成果がようやくここで出るのかー。 長かったなぁ」
「夢を達成しこれで終わりだと思うと寂しくもなるけどな」
「終わりっていうことはないんじゃない? 宇宙飛行に成功したら取材とか来るかも!?」
身近になった宇宙旅行であるが、資金や資格の問題から誰も彼もがぽんぽんと宇宙へ行くわけではない。
基本的には資産を持つ人間の活動が大半で、大学生のサークルでロケットを発射となると前例はほとんどない。 天都は恵人に言った。
「恵人は準備大丈夫?」
「うん。 緊張してあまり眠れなかったけど」
確認を取るとみんなに向かって言った。
「じゃあ各々出発する最終準備をするように。 佳与は荷物を減らすんだぞ」
「はーい・・・」
そうして4人は用意していた宇宙服に着替えロケットへと乗り込んだ。 この宇宙服もサークルで一から作り上げたもので、プロが使用するものに比べると性能は大幅に劣っている。
考えたくはないが、宇宙船外に投げ出されるようなことがあればものの数秒で絶命してしまう。 ただそのような事態になれば終わりであることはメンバー全員が分かっている。
低予算である分、安全性は担保されていない。 そんなことは考えていても仕方なく、4人はそれが分かった上で宇宙へ行くと決意しているのだ。 佳与は元気よく片手を上げる。
「では出発ー!」
最終確認を内部からもして、発射ボタンを押すと船全体が爆音と激しい揺れに包まれた。 ただ従来のロケットとはまるで機構が違うため、炎を放射するようなことはない。
それでも天都が予想していたよりも大きな衝撃があったのは、今までロケット発射を見てきたのが外からでしかなく、内側から感じたことがなかったためだろう。
「飛んだ! 飛んだぞ!!」
「行定、あまりはしゃぐな」
「重力が凄い! 下に引っ張られるぅー!!」
「どんどん地球が遠ざかっていく・・・」
佳与も恵人もそう呟いていた。 そうして無事宇宙に着いたのか物凄く身体が軽くなったような気がした。
「なぁ、天都! もうシートベルト外していいか!?」
「あぁ」
許可を取ると行定は早速とばかりにはしゃぎ出す。
「凄ぇー! こんな体感初めてだ!!」
「ふわふわするー! 気持ち良過ぎる!!」
「地球が綺麗・・・」
―――これが宇宙空間か・・・。
―――想像していたものよりも何倍も凄い。
各々宇宙へ来た喜びと感動を噛み締めていた。 しかしそんな幸せな時間は一瞬で終わってしまう。
「何だ!?」
突如大きな衝撃と共に船体が傾いた。 それは想定していたものではなく、明らかに何らかの事故が起きたと思われた。
「うわぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁ!!」
無重力ゆえ船が大きく回転してしまう。
「OKギーグル! 船体の傾きを修正しろ!!」
天都が船に積まれたAIに言語操作を試みると次第に揺れも収まっていった。 皆も安堵して胸を撫で下ろす。
「ちょっと値が張ったけどAIを積んでおいて助かった・・・。 今のは一体何だったんだ?」
「デブリでもぶつかったかな?」
「いや、破損した様子はなさそうだ」
「今のところ異常はないんだろ? あまり時間がないから気にしないでもいいんじゃないか?」
「あー! カメラでも回しておけばよかった! 宇宙旅行最初のアクシデントとしてミーチューブに投稿できたのにー!!」
「不謹慎だぞ・・・。 でもそれも目的だもんな」
この時すぐに全体の確認を行っていれば、この先起きる事件を防げたのかもしれない。 しかし4人はすぐに行動に移さなかった。 少しずつロケットの動きに異常をきたしていることに気付けなかったのだ。
「え・・・。 何これ・・・」
宇宙船の窓から見える光景が突如虹色に発光した。
「何かヤバいってこれ! すぐに地球に帰ろう!!」
宇宙船は阿鼻叫喚の嵐だった。 AIに命令しコントロールを促すが、応答はあるが機体は一切動かない。 手動でも試してみたが、うんともすんとも言わなかった。
「どうして何も動かないんだよ!!」
天都が操作盤を叩く音が響く。 その直後、宇宙船の中だというのに膨大な光に包まれ、気付けば三人のメンバーは意識を失っていた。 天都だけは意識が朦朧としておりその頭で考える。
―――何が起こったのか分からない・・・。
―――だけどこのままだと全員死ぬ。
―――それなら運否天賦になってしまうかもしれないけど、緊急保護ボタンに賭けてもいい。
地球へ帰還する際、問題が起きた場合に残ったエネルギーを消費し機体を保護するための不時着用システムがあった。 天都もそれを押すとほとんど同時に意識を失っていた。
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