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11.そばに居てくれるなら
また冬を迎えて、庭から色が消える。
毎週木曜日の逢瀬はもう必要なくなった。俺らは会いたいときに会うことにした。庭をぼんやり二人で見たり、受験勉強をしたり、たまに買い食いしたり。
浅井と一緒にいればいるほど楽しくて愛しい。
大袈裟かもしれないけど浅井がいてくれたから、高校生活を楽しめたと思う。それは親友としても、恋人としても。
ある日の放課後、教室の窓から浅井は外を見ていた。茶髪がふわふわと揺れていた。
「今日は暖かいな。だけどあまり風に当たると風邪引くぞ」
空いていた窓を閉める。
「大丈夫だよ、もう受験終わったし!あー智紀と同じ大学に行けますように!」
手を合わす仕草に笑ってしまった。
「何見てたんだ?」
「んー、正門の庭。そろそろ花が咲き出すのかなって。もうちょっとで見納めだと思ってさ。それにしても当主が庭づくりなんてすごいね」
浅井にはまだ説明会していなかったことを思い出した。その庭は拓也さんが作ったことを。篁家には父親が二人いることも。
他言は禁物だ。世間には蒼介さんがゲイだと知られてないのだから。でも浅井には知っておいてほしい。
これからも一緒にいてくれるのなら…
以前、同性を好きになったことを、拓也さんに相談したことがある。その時に聞いた言葉。
『まず自分を信じろ。あと言葉に出すんだ。臆するな』
言葉にせずに危うく別れそうになった蒼介さんと拓也さん。俺らもそんなことにならないように、と拓也さんが心配してくれた。
逆に槇に対してもはっきりと言葉にせず抵抗しなかったことで、ずるずるとあんな関係を持ってしまった。
言葉は出さないと伝わらないんだ。
「なあ、浅井」
「何?」
振り向いた浅井が眩しいのは夕陽に照らされていたからだろうか。それとも愛しくてたまらないからだろうか。
「卒業式が終わったら、うちに来ないか?…お前のこと、義父に紹介したいんだ」
それを聞いて一瞬キョトンとした浅井は、次の瞬間、笑顔になる。
「それは、友達として?恋人として?僕はどの顔で篁家当主に挨拶したら良いかな?」
「恋人としてに決まってるだろ…だからさ」
俺は浅井を抱きしめて、赤くなった自分の顔を隠しながら言った。
「大学でたら、結婚しよう」
出会ってまだ数年だし、男同士。まだまだ若くて、俺たちには背負うものがたくさんあるけれど。
ビクッと浅井の体が震えた。
「…随分唐突だね。ねぇ、知ってる?日本じゃ男同士は結婚できないんだよ」
「知ってる」
「篁家の当主になるんだろ?」
「なる」
「ダメじゃん、後継だって…」
「当主にもなるし、お前とも一緒にいる。一緒に朝ごはん食べて、一緒に夜寝る」
ゆっくりと浅井が俺の体を押して、離れる。俯いていた顔を俺は両手で包んであげると、浅井は泣いていた。
「バッカじゃないの…っ、賢いはずなのに」
「お前の前だったらバカになるよ」
「うぅ〜」
ポカポカと俺の胸を叩く。これはどういう意味なんだろうか。俺は思わず笑ってしまった。
「嫌?」
「嬉しいんだよ、ばか!」
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