12.卒業の日に

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12.卒業の日に

卒業式の日。槇が答辞を読み上げ、盛大な拍手で卒業生は見送られた。桜はまだ咲いてないがあと数日で開花するだろう。庭の花たちも、門出を祝うかのように咲いていた。 式を終えて、荷物を取りに浅井、木村と一緒に講堂から教室へと移動する。 「浅井ちゃんともこれで最後かああ」 隣で木村が浅井の頭をポンポン叩いていたので、俺がその手を止める。 「あっ、篁くんとも最後だあ」 「付け加えたように言うな」 そんなことを言いながら歩いていると、前方から槇が歩いてきた。 「よぉ、生徒会長さん、お疲れ様」 木村が手を握り差し出すと、槇も拳を握りこつん、と二つの拳を合わせた。槇の顔がいつもより穏やかに見えるのは、役目を終えたからだろうか。ふと槇はこちらを向く。 「篁くん、今までありがとう。君がいてくれたから、僕も頑張れたよ」 「あ…俺の方こそ…」 手を伸ばし、握手を求めてきた槇。【朝会】のことを思い出して一瞬怯んだが、そのまま槇の手を握ると、槇の手は冷たかった。 「手、冷たいな」 「緊張すると冷たくなるんだよな。本当は緊張しやすいもんなー」 かわりに木村が笑いながら答える。 「崇っ」 少し木村を睨みながら槇は俺の手を離した。それでもまだ冷たい感触が残っている。二年間隣にいたけどそんな事は知らなかった。俺が知っていたのはいつも完璧な生徒会長で…だけど今目の前にいるのは、幼馴染の木村にわあわあ言っている普通の同級生だ。 「槇は親の跡を継ぐのか?」 父親が議員をしていると聞いたことがある。 「ああ。でも継ぐんじゃない。俺はもっと上を目指す」 ニヤリと笑う槇。その自信満々な態度に俺は思わず笑ってしまった。 「お前なら大臣にでもなれそうだな」 「その時は支援を頼むよ、篁家当主さん」 槇が拳を握り俺の前に差し出す。さっき、木村がやったように、俺もその拳にこつんと自分の拳を合わせた。 *** 「噂には聞いてたけど、やっぱり大きいね…篁邸って!」 浅井がアイアンの門扉越しに篁邸(わがや)を見てそう呟いた。 「俺も初めてここに来た時はびっくりしたよ」 門扉を開け、二人で歩く。目の前に広がるのは拓也さんの力作のイングリッシュガーデンだ。蒼介さんとこの庭で楽しそうに話をしているのをよく見かける。 「やっぱり学校の庭と、何となく似てるね」 足をすすめながら咲いている花を見る浅井の顔は嬉しそうだ。ふと、顔を上げると、二階の窓に人影があることに気がついた。 それはこちらを見ている拓也さんだった。 以前、拓也さんに浅井のことを話したことがあった。 『父さんの庭が好きなんだって言ってた。いつか家に連れてきて庭を見せてやりたいんだ』と、俺が言うと『そうか。楽しみにしているからな』 と嬉しそうだった。 (拓也さん、連れてきたよ) 俺は拓也さんに向けて大きく手を振った。すると浅井が気がついて俺を見る。 「義父さんだよ。庭作った方」 「え、ほんと」 浅井は拓也さんの方に顔を上げて一礼した。二階の拓也さんの表情までは見えないけれど、手を振ってくれている。 いまから蒼介さんに浅井を『恋人』だと紹介することを、拓也さんは知っている。きっと『頑張れよ』と応援してくれているだろう。 玄関を開ける前、そっと浅井が俺の制服の裾を握る。きっと緊張しているのだろう。 「大丈夫だ、蒼介さんは優しいから」 「でも…」 「万が一、何か言われても俺がお前を守るから」 浅井は照れたような顔を見せて、俺の手を握る。 その手を強く握ったまま、俺は玄関の扉を開けた。 【了】
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