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3.クラスメイト
朝っぱらから憂鬱な気分を抱えつつ、俺は自分の教室へと向かう。廊下から教室へ入ろうと、戸を開けた時、中から出てきたクラスメイトとぶつかりそうになった。
「うわ」
「あ、ごめん!」
出てきたのは背の低い、茶髪のクラスメイトだ。俺はあまりクラスメイトと戯れ合うことがないので、今まで気にしていなかったけど珍しくこの学園にしては明るい髪の色だ。
そしてその髪の色で思い出した。今朝、正門の庭でしゃがみ込んでいた生徒もこれくらい髪の色が明るかった。
(今朝のはコイツか?)
「浅井、コーヒー牛乳だからな、間違えんなー」
教室の中から声がして、浅井と呼ばれた背の低いやつは「まかしといてー!」と手を振りながら走っていった。
どうやらホームルーム前なのに、自販機まで買い出しのようだ。
「篁、おはよ」
さっき浅井に声をかけていた木村が手を振ってきた。木村は同じ執行部のメンバーだ。
「おはよう。朝から騒がしいな」
「あいつおもしれーからな」
「…名前なんだっけ」
「おー、珍しい。篁が興味もつなんて!てか、クラスメイトくらい覚えてやれよなー。浅井だよ、浅井悠太。浅井製薬の次男坊」
もう六月になるのに、初めて会ったみたいな顔して、と木村が苦笑する。とにかく俺は人の顔を覚えられない。そもそも興味がないから覚える気がないのだ。
逆に木村は顔が広く、クラスメイトの親の会社まで把握していた。確か木村の親は不動産会社を経営していると聞いたことがある。
「お前、人を覚えられないって。そんなんじゃ経営者になれねぇぜ」
「仕事なら別だろ」
クールだねぇ、と木村。
俺の席が近いこともあり、そのまま話をしていると、先ほどの浅井が手にコーヒー牛乳を抱えて帰ってきた。
「おっ、サンキュー!浅井ちゃん」
「僕も飲みたかったからさあ」
その様子を横目に見る。飲みたかったって、お前使われてるの分かってんの?と言ってやりたくなった。浅井のヘラヘラした顔が何だか無性にイラついて、俺は二人から目を背け、窓の外に視線を向けた。
その日から何故かあの茶髪に目がいくようになった。木村たちに使われてはいるけど、イジメとかではないみたいだ。浅井の周りにはいつも誰かいて、よく笑っている。今まで気づかなかったのが不思議なくらい、うるさい。
だけど、ただのうるさいヤツではないことに俺はその後に気づいた。
木曜日の朝。【朝会】の日に、必ず浅井を見るようになった。それは正門の庭で。やはり以前見たしゃがみ込んで花を見ていたのは、浅井だったのだ。
普段登校する時には見かけないから、この早い時間を狙って花を見ているのだろう。人が少ない時間にゆっくりと見るためなのか。
何度か浅井の背中を見て、ある日俺はその背中越しに声をかけた。
「お前、花好きなの?」
話しかけられて、一瞬肩がビクッと震えたが振り向いた浅井は、俺を見るなりニカっと笑った。
「うん。この庭好きなんだ」
「庭?花じゃなくて?」
「花も好きだけどさ」
立ち上がって背伸びをする浅井。俺よりもかなり小さい。百六十センチくらいだろうか。俺と十五センチくらい、差がある。
「この庭、季節ごとに花が変わるし、草木とかもいろんな色になるしさあ。なんて言うのかなー、こう見えて巧妙に計算されてるんだろうなって」
浅井の言葉に俺は動揺した。こいつ、そんなこと全然考えてなさそうな、能天気なやつだと思ってたのに。
「篁くんも、好きなの?この庭」
男にしては大きな目をこちらに向けて、浅井が聞いてくる。
「まあな。この庭作ったの俺の義父だから」
「えっ?」
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