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8.体育祭
体育祭当日は晴天となった。競技を楽しむ、ということはできなくて、朝から裏方として 走り回っていた。なんでこんなに生徒会執行部が忙しんだよ…
「はー、疲れた」
校庭の裏、人がいないところを狙って、そこに座り込む。少しくらい休んでも良いだろう。
肩にかけていたタオルで汗を拭き、体を休めていると風が吹いて、一瞬涼しくなる。
頭に巻いた鉢巻が体に巻きつくので外した。腰の辺りまであってうっとおしい。小学生でもあるまいし鉢巻なんて…
手を伸ばし、背伸びをしていると校舎からヒョイと人がのぞいてきたので驚いた。
「篁くん」
「わ…!って浅井か」
同じ長さの鉢巻をした浅井が近づいてきて、隣に座る。
「サボり?」
揶揄うように笑う。浅井も額に汗をかいている。
「違うよ、疲れたから休んでるだけ」
俺は手にしていたタオルを浅井に渡すと、サンキューと汗を拭いていた。
「暑いなー。篁くん、あと何個競技でるの」
「三つかな」
「まだそんなにあるの」
話をしながら体を休める。サワサワと風が頬を撫でる。
最近の多忙さで浅井とは木曜日の朝に会うことができなかったので、嬉しい。
チラッと横の浅井を見る。
まだ首筋に汗が流れている。火照った頬がすぐそばにある。
(あ…やばい)
手を伸ばしたらすぐ触れられる距離。半袖から伸びる少し焼けた腕。筋肉のついた太もも。
そして柔らかそうな唇。
「篁くん?」
少しだけ見ているつもりだったのに、浅井は俺の視線に気がついたのだろう。大きな目がこっちをみる。
ここで触れたら…キスしたら…。俺は槇と同じになる。だけど…
言葉が出てこない。
すると、浅井の腕が伸びてきて、俺の顔に触れた。
「真っ赤だよ」
微笑んだ浅井の顔が急に、大人びて見えた。俺は誘われるかのようにそのまま顔を近づけて、浅井の唇に自分の唇を重ねる。
ふにっと柔らかな感触。ふんわりと汗の匂いがする。
意外だったのは、浅井が逃げなかったこと。むしろ…浅井は俺の顔から手を離し、そのまま今度は体に腕を回した。
軽く抱きつかれた形になり、驚いて唇を離すと、閉じていた浅井の目がトロンと開く。
そして今度は浅井の方からキスをしてきた。ふたたび柔らかな感触に、体が疼く。
「ん…」
お互いに求めたその感触を、お互いに味わっていた。
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