半券

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「おーい、俺が頼んだのクリームパンなんだけど? あんぱん? ふざけてんの? 」 「いや、あの、すみません…」 私の目の前で繰り広げられるあまり気持ちの良くない光景。要はいじめ。自分が標的になりたくない、または関わりたくない、と思ってみんないちいち手を出したりしない。 くだらない、そう思いながら私も見て見ぬふりをしている。いじめているのはここらでは有名な政治家のお家柄のおぼっちゃま。いじめられているのは最近転校してきたかよわい男の子。 先生も、みんなも、結局親の権力が怖くていじめのことを公にできない。子供というのは敏感だから、親の権力構造がそのまま伝わる。 ちなみにいじめられているあの子は転校早々に元標的くんを庇って自ら標的になったバカ。 「やめなよ」 その一言。それが、あのガキ大将気取りの逆鱗に触れた。 その日中に彼はボコボコにされ、標的が移り代わった。反抗的な彼だったが親の弱みをガキ大将に握られたようで、いつの間にか逆らわなくなくなった。標的になってしばらくは、本当に生気を失ったような顔をしていた。 「おいおい、日本語わかんねぇのかよ、クリームパン買ってこいよ」 「ぼ、僕もうお金なくて…」 でも、最近、顔が違うような気がする。普通に見ていれば以前と変わらずおずおずとしているのだが、どこか、自然すぎるというか、演技のように見えなくもない。 分からないけれど、ただ、不快な光景には変わりない。早くガキ大将がいじめに飽きるのを待つばかりだ。 耳障りなのでイヤホンで雑音を遮断して昼休みを過ごすのが私のお決まり。 「あ? お前パンも買えねえの? じゃあ土下座しろよーほら、そこに跪けって」 男の子は弱々しく土下座する。でも、どこか違和感。大人しく従っているだけの彼がとても強かに見える。 「おい、本当に金ないのかよ、財布出せよ財布」 そう言っていじめっ子は財布を分捕る。 「あ、待って…」 …恐喝?  「お、金無いとか言いながら、お前これって」 「あっ、それは、やめ、」 そう言いながらいじめっ子が財布からピラっと取り出したのはなにかの半券。 ん? あれって─────────
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