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「良かったですね」
そんな風に言っていいのかどうか。不謹慎な気もしたが、暴力男に同情は出来ない。
「そうね、私もあの時はこれで悪夢は終わったと喜んだものよ。本当に、喜んだのよ」
含みを残した言い方が気に掛かるが、私は神山さんにベッドに横になったらどうかと打診した。夜は深まり、少々肌寒い。神山さんはそろそろ寝たほうが良いだろう。
神山さんは素直に立ち上がって壁に沿っておいてあるベッドへと移動し、そこに横たわった。
「結婚して家を出ていた息子の目を盗んでね、ある日息子の嫁が私のところに来るまでは束の間の平和な日々だったわ」
布団を掛けてあげていた手が止まった。神山さんに息子が居た記憶はない。確かにさっきも子供の話をしていたが、神山さんには身寄りがなかったはずだ。
「息子さんですか……」
やはり認知症なのだ。そう密かに思いながら布団を整えた。
「ええ。あの人そっくりの息子よ。嫁は家に入るや否や、着ていたブラウスを脱ぎ捨ててみせたの『こんなの耐えられません! どうしてあんな狂った子を野放しにしておくのですか』と。見覚えのある青あざ。寒気が走ったわ……恐ろしいことだった」
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