【2】崩壊の地へ

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〜アイスランド共和国〜 北極圏よりわずか南、ノルウェー海と北大西洋の狭間に位置し、国土は日本の約3分の1で、全体の10%は氷河で覆われいる。 火山活動が活発な地域のひとつであり、地熱を利用した温水プールが全土に170以上ある。 面積約5,000㎡(50mプール4個分)の世界最大の露天風呂『ブルーラグーン』が有名である。 今は白夜の時期。 首都レイキャビクで開かれた緊急会議に、ラブの姿があった。 国連のカナビック事務総長から依頼を受け、今回の異常事態の調査に参加したのである。 「皆さんお集まり頂き、感謝します。ご存知の通り、我が国は30の活火山を持つ火山国です。先日発生した太陽の異常事態以来、海底火山を含め、既に7つの火山が噴火しています🌋」 6f898c78-3905-46e3-8928-e55889386071 ヴィグディス大統領が、会議を始めた。 苦悩の跡が顔に表れている。 「ヴァトナヨークトル氷河の下にある、グリムスヴォトンの噴火も時間の問題でしょう。既に国民は、ヨーロッパ諸国への避難を開始しました。ですが、問題が…」 ヴィグディス大統領がラブへ目をやる。 理解したラブが演題に向かう。 「国連より派遣されました、TERRAコーポレーションのトーイ・ラブです。衛星からの画像分析と、上空や海上から入手したデータから、大きな問題が分かりました」 近隣の地図をモニターに映す。 「この地図に火山帯を重ね、現在噴火中のものを表すとこうなります」 火山帯が蜘蛛の巣の様に走る。 その真上にあるのがアイスランドであり、元々連なった海底火山が隆起して成した国である。 「この熱により、アイスランド氷河やグリーンランド氷河の氷床が一気に流れ出し、今後一月で一時的に海面が50㎝以上上昇。ここレイキャビクはもちろん、ヨーロッパ西岸の街にもかなりの被害が予想されます」 急に騒めきが増す会場。 「沢山あるあの大きな氷山も溶けるのか?」 アイスランド、グリーンランドには、有名なテーブル氷河(氷床が分離し、上面が平面の氷山)が数多くあり、数十mから数kmの大きな氷が海に浮かんでいる。 「氷山の溶解も加速しますが、これらは海面上昇には影響ありません。そうですね…例えばグラスの氷が溶けても、ウィスキーの量は変わらないのと同じです🥃」 緊張感ある中で、柔らかに説明するラブ。 多少の安心感が漂う。 「1番の問題は、火山帯の連鎖で、イタリアのシチリア島にあるエトナ山や、同じくナポリ近郊にあるベズビオ山です。周辺の火山活動から見て、一月内には噴火する可能性が高いと考えます」 会場に大きなどよめきが湧く。 エトナ山は、ヨーロッパで最も高い火山。 もし噴火すれば、大都市カターニアには、時速100kmを超える大量の火砕流が流れ出し、ヨーロッパ中に火山灰が降り積もる。 また、古代ローマの都市ポンペイを滅亡させた世界屈指の危険な火山ベズビオ。 噴火すれば、最高時速700kmの火砕流が発生すると予測されている。 「何か手立てはないのか?」 「噴火の力を止めることは、私達にはできないでしょう。ただし、より被害の少ない方へ逃し、噴火を止める方法は理論上可能です。今TERRAの開発部門と、世界中の研究家で検討しています」 「世界中の?」 その言葉が気になった首相。 「はい。実は、ここだけではないのです。ハワイや日本、北・南米から南極に至るまで、異常な兆候が観測されています」 「も…もし、世界の火山が噴火したらどうなるのだ、地球は?」 「破壊的な噴火をした場合。…成層圏まで大量の火山灰が噴き上がり、太陽光を遮ります。これにより、大幅な気温の低下が考えられ、さらに、発生する異常気象は多種に渡り、壊滅的な規模の被害が予想されます」 言葉も出ない衝撃的な予測。 それを最も信頼する、ラブが告げたのである。 世界は今まさに、世紀末の脅威に直面しようとしていた。
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