【2】崩壊の地へ

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〜伊豆諸島〜 東京湾をホームポートとする釣り船達が集う。 三宅島の南西20km。 岡山芳樹(おかやまよしき)を中心に、ネットで知り合った釣り友5人が粘る。 狙うはマカジキ。 カジキ釣りは、1日に一本かかればラッキーな、根気のいる勝負である。 始めてまだ1時間。 岡山の竿がヒットし、大きくしなる。 「マジか⁉️かなりの大物だ」 約100m先の海面に、大きな飛沫(しぶき)が立った。 そこから一気に深海へと潜るカジキ。 そうはさせまじと、渾身の力で引き寄せる。 ノルウェーの名品、マスタッドダブルフックを使う岡山は、未だバラしたことはない。 「岡さん、早すぎやわ!さすがリーダー」 古い友の畠山昇(はたけやまのぼる)が、岡山の腰へベルトを回し、船に固定する。 後は体力勝負である。 船長が様子を見ながら舵を取る。 もし船底を抜けられたら、バラすしかない。 そこで岡山は異変に気付いた。 「何だ?」 「どうした、岡さん?」 「こいつ潜りかけてたが、急に上がって来やがった!このままだと出るぞ❗️」 そう言った瞬間。 深海から一気に上がって来たマカジキが、その勢いで海面から高く飛び出した。 「でけぇ〜!」 「なにっ⁉️」 5人のみならず船長までもが、その光景に驚きの声をあげた。 飛び出したマカジキを追って、黒と白の巨体が現れ、空中で咥え込んだ。 「岡山さん、早く切るんだ❗️」 船長の声で我に返り、どんどん出て行くトローリングライン(釣り糸)をナイフで切った。 信じられない光景に、暫くは放心状態となる。 既にラインは残り僅かであった。 「大丈夫ですか?」 慌てて出てくる船長。 「はい。おかげ様で…危ないところでした」 あと数秒遅れていたら、体を固定して、竿を必死で持っていた岡山の腕は、その瞬間的な力に耐えられず、折れていたかも知れない。 「皆んなあれを❗️」 畠山が海を指差した。 「どうしてこんなところに…」 そこには無数のシャチの群れが、北へ向けて進んでいたのである。 低温の海水域に生息するシャチ。 日本の近海でも、北海道周辺では良く見かけられるが、それより南ではごく稀にしかいない。 慌てて船長が魚影レーダーを見に行く。 「そんなバカな…」 レーダーの一面を埋め尽くす程の数。 他の者も操舵室へ入って来た。 「こんな数のシャチの群れ…南極周辺に、7万頭が生息していると聞いたことはあるが、まさか…」 海洋研究所に勤務する岡山には、この異常事態が、海の生態系に及ぼす影響を懸念した。 無線でこの異常事態を知らせる船長。 「伊豆諸島海域を、無数のシャチの群れが北上中。北にいる漁船は、直ぐに避難して下さい」 「船長、我々も神津島(こうづしま)へ避難を」 「そうだな」 急いで北西約30kmにある、一番近い神津島へと向かった。 〜三宅島〜 その頃、三宅島でも異変が起きていた。 野鳥の数が異常に減少し、調査していた『日本野鳥の会』の鳥類研究家、濱口伸治(はまぐちしんじ)率いるチーム。 調査している内に、見慣れない鳥の集団に遭遇したのである。 「濱口博士、あれは『キョクアジサシ』ではないでしょうか?」 「ああ、だが今頃は南極から北極に渡っているはず。それに、渡るコースはアメリカ西海岸沿いで、日本では見られないはずだ」 キョクアジサシは、最も長距離を渡る鳥の1つで、その距離は片道約16000km。 夏の北極圏で繁殖し、非繁殖期は夏の南極周辺海域で過ごす。 ネットで調べていて部下が来た。 「博士、もしかしたらあれは、普通は渡ることのない、ナンキョクアジサシではないでしょうか?」 「なるほど、見分けはつかないが、その可能性はあるな。しかし何故…南極で、またここで何が起きてるんだ…」 謎が深まる中で、何かの危機を感知した行動であることは察していた。 【キョクアジサシ】 23277776-ac4b-470d-8945-5f13ad7a0d25
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