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〜伊豆諸島〜
東京湾をホームポートとする釣り船達が集う。
三宅島の南西20km。
岡山芳樹を中心に、ネットで知り合った釣り友5人が粘る。
狙うはマカジキ。
カジキ釣りは、1日に一本かかればラッキーな、根気のいる勝負である。
始めてまだ1時間。
岡山の竿がヒットし、大きくしなる。
「マジか⁉️かなりの大物だ」
約100m先の海面に、大きな飛沫が立った。
そこから一気に深海へと潜るカジキ。
そうはさせまじと、渾身の力で引き寄せる。
ノルウェーの名品、マスタッドダブルフックを使う岡山は、未だバラしたことはない。
「岡さん、早すぎやわ!さすがリーダー」
古い友の畠山昇が、岡山の腰へベルトを回し、船に固定する。
後は体力勝負である。
船長が様子を見ながら舵を取る。
もし船底を抜けられたら、バラすしかない。
そこで岡山は異変に気付いた。
「何だ?」
「どうした、岡さん?」
「こいつ潜りかけてたが、急に上がって来やがった!このままだと出るぞ❗️」
そう言った瞬間。
深海から一気に上がって来たマカジキが、その勢いで海面から高く飛び出した。
「でけぇ〜!」
「なにっ⁉️」
5人のみならず船長までもが、その光景に驚きの声をあげた。
飛び出したマカジキを追って、黒と白の巨体が現れ、空中で咥え込んだ。
「岡山さん、早く切るんだ❗️」
船長の声で我に返り、どんどん出て行くトローリングライン(釣り糸)をナイフで切った。
信じられない光景に、暫くは放心状態となる。
既にラインは残り僅かであった。
「大丈夫ですか?」
慌てて出てくる船長。
「はい。おかげ様で…危ないところでした」
あと数秒遅れていたら、体を固定して、竿を必死で持っていた岡山の腕は、その瞬間的な力に耐えられず、折れていたかも知れない。
「皆んなあれを❗️」
畠山が海を指差した。
「どうしてこんなところに…」
そこには無数のシャチの群れが、北へ向けて進んでいたのである。
低温の海水域に生息するシャチ。
日本の近海でも、北海道周辺では良く見かけられるが、それより南ではごく稀にしかいない。
慌てて船長が魚影レーダーを見に行く。
「そんなバカな…」
レーダーの一面を埋め尽くす程の数。
他の者も操舵室へ入って来た。
「こんな数のシャチの群れ…南極周辺に、7万頭が生息していると聞いたことはあるが、まさか…」
海洋研究所に勤務する岡山には、この異常事態が、海の生態系に及ぼす影響を懸念した。
無線でこの異常事態を知らせる船長。
「伊豆諸島海域を、無数のシャチの群れが北上中。北にいる漁船は、直ぐに避難して下さい」
「船長、我々も神津島へ避難を」
「そうだな」
急いで北西約30kmにある、一番近い神津島へと向かった。
〜三宅島〜
その頃、三宅島でも異変が起きていた。
野鳥の数が異常に減少し、調査していた『日本野鳥の会』の鳥類研究家、濱口伸治率いるチーム。
調査している内に、見慣れない鳥の集団に遭遇したのである。
「濱口博士、あれは『キョクアジサシ』ではないでしょうか?」
「ああ、だが今頃は南極から北極に渡っているはず。それに、渡るコースはアメリカ西海岸沿いで、日本では見られないはずだ」
キョクアジサシは、最も長距離を渡る鳥の1つで、その距離は片道約16000km。
夏の北極圏で繁殖し、非繁殖期は夏の南極周辺海域で過ごす。
ネットで調べていて部下が来た。
「博士、もしかしたらあれは、普通は渡ることのない、ナンキョクアジサシではないでしょうか?」
「なるほど、見分けはつかないが、その可能性はあるな。しかし何故…南極で、またここで何が起きてるんだ…」
謎が深まる中で、何かの危機を感知した行動であることは察していた。
【キョクアジサシ】
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