【3】未知の力

1/6

99人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ

【3】未知の力

〜神奈川県横須賀市〜 アメリカ海軍横須賀基地、通称横須賀ベース。 旗艦『ブルー・リッジ』を主力とする、第7艦隊の基地であり、主に西太平洋を担当する。 指揮官マシュー・ジャレットに、巡回中の艦隊から緊急連絡が入った。 ジャレットは、即刻ハワイ・ホノルルの本部へ連絡し、国防総省ペンタゴンより、緊急リモート会議が召集された。 「報告します。日本の東約1600km、北緯33度、東経158度にて、国籍不明の潜水艦を探知。深度1000mで停船中。無線への返信はありません」 「国籍不明?近くに潜水艦はいないのか?」 メイソン防衛長官が問う。 「海軍で把握しているもので、一番近いのはハワイにありますが…トラブルの修理にあと1日かかります。艦は中型で、どの形にも属さない初めて見るものです」 不鮮明な超音波計測による画像が映る。 「いつからいるんだ?」 「少なくとも、艦の影を感知してから2日は過ぎています。あそこは火山帯の真上であり、ガスや電磁波に妨害されて、特定に時間がかかりました」 報告の遅れをつかれる前に述べた。 「ならば酸素が尽きて、浮上するだろう」 そこで会議に外信が入り込んだ。 「メイソン防衛長官、ラブです」 「おぉ、ラブさん。今アイスランドと聞いたが…」 「ええ、こちらの調査と会議は終わり、帰国するところです。長官、その潜水艦には、明らかにおかしな点があります」 「おかしな点?」 聞き返しながら、部下に目をやる。 (全く、知らんのか!) 「TERRAの監視衛星の画像と、頂いた画像を合わせて3Dモデル化したものがこれです」 3DのCG画像が映された。 「ご覧の通り、魚雷の発射口が無く、ハッチも形だけで、開閉構造が見当たりません」 「何だと⁉️」 映像が拡大された。 「確かに。つまりこれは…」 「無人の潜水艦と思われます。従って酸素は不用。浮上するかは、目的次第です」 「潜水艇を空輸し、至急調査しろ!」 「まぁまぁ、メイソン長官。落ち着いて安全な方法を考えなさい」 スミス大統領が、殺気立つ長官をなだめる。 「長官、大統領、今は世界中の火山帯が危険な状況にあります。潜るのは自殺行為です。かと言って、無人探査艇も操縦不能だと思います」 「ラブさんの言う通りです。色々考えましたが、今は監視するしかありません」 ジャレットがラブに同意する。 「では、どうやってアレはあそこへ?」 「全く交信がされてないことから、恐らく正確にプログラミングされたものと考えます。それから…問題が2つ」 ラブの声に耳を澄ます会議。 「1つ目は、微量ですが、放射線を感知しています」 「何だと!核か⁉️」 騒然となる参加者達。 「武器か燃料かは不明です。今、衛星の記録画像から、どこから来たかを、何とか突きとめようとしていますので、また連絡します」 「もう1つは何だ?」 「北緯33度、東経158度。そこは、2013年に発見され、一時は太陽系最大級の火山とまで報じられた、タム山塊(さんかい)がある場所なのです」 「タム山塊❗️何ということだ…あんな巨大な海底火山が噴火したら、どれだけの被害がでるか、想像もできない」 タム山塊は、北西太平洋に位置し、山頂は海面下約2000m、山の高さ((ふもと)の深さ)は約6400mで、その広さは、450〜650kmに及ぶ火山帯の集結地である。 「タム山塊の噴火自体は問題ありません。海底火山は、世界中に1万以上あり、私達が知らない噴火を幾つも起こしています」 「どう言うことだ?」 「海底火山は、その多くが1000m以上の海底にあります。水深が10mで陸上の2倍の水圧がかかり、数千mでは数百倍の圧力です。陸上の火山は、マグマに含まれる水分が水蒸気となって膨張し、爆発的噴火を起こしますが、深海底では水圧のため水蒸気になれず、爆発的噴火は起きません」 「そうなのか…」 会議に参加している者達も安堵する。 それをラブは(くつが)えす。 「しかし。連なった火山帯が連鎖的に噴火し、その振動は、太平洋プレートに影響を及ぼし、海水温上昇の生態系や気候への影響は計り知れません」 一転して騒めきと不安が再燃する。 「それに、あの謎の潜水艦…。もしも核爆弾なら、恐らくは水素爆弾。爆発は噴火を促し、数千から数百万度の熱は、火山上部の海水を大量の水蒸気に変えます。これにより、想像を絶する大爆発の噴火が予想されます」 「そんな…被害はどの程度に?」 「高速で、高さ数百mの津波が太平洋沿岸部を壊滅させ、数百度の熱波と強大な衝撃波により、アメリカでも内陸部に至る全てを消滅させるでしょう」 「まさしく…世界の終わり…か」 スミス大統領の呟きは、静かに恐怖を伝えた。 「専門家達と、何とか食い止める策を検討してみます。長官、軍の協力もお願いします」 「ラブさん、いつもながら世話をかけるが、頼む。もう一度世界を救ってください。軍でも施設でも、好きに使っていい。長官、衛星とレーダーで監視を続け、近付かない様にしなさい」 「艦隊は迎撃の態勢をとり、命令を待ちます」 以上で会議は終了した。 部屋をでる大統領の専用携帯が鳴った。 「ラブさん。話を聞きましょう」 予測していたスミス大統領。 リムジンの後部席へ1人乗り込み、完全閉鎖の密室とした。 「大統領、折言ってお願いが…」 それは、予想を遥かに上回るものであり、複雑な問題に対処が必要なため、3日間の猶予を貰った大統領であった。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加