【1】遺恨の地より

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高校に入り、2人は新しい仲間と『チムグクル』と言うバンドを結成した。 作詞は主に新垣多香子が担当し、作曲はギタリストである比嘉晋也が行った。 ドラムの比嘉(ひが)健司(けんじ)、ベースの金城(かねしろ)俊幸(としゆき)、それに沖縄の楽器である三線(さんしん)奏者、佐久本(さくもと)美優(みゆ)が加わり、難しい編曲や譜面作りを担当した。 優しい歌詞に、爽やかな海風の様な歌声と曲調、そこに三線(さんしん)の音が、沖縄らしさを上手く組み入れていた。 ネット配信すると、人気は日本のみならず、世界中に広がり、既にアマチュアバンドとして注目され始めていた。 『みんな、今夜は6時に俊幸の家に集合!』 滅多にない晋也からのLINEに驚くメンバー。 『おい、何だかしらねぇが、俺ん()かよ!』 『金持ちの家に生まれたことを、宿命と思え』 『確かに、広いもんね〜トシの家』 『三線の教室があるから、少し遅れます』 なんだかんだ言っても、集まる仲である。 そして敢えて理由も聞かない。 そんな仲間を多香子は気に入っていた。 それも沖縄のスタイルかも知れない。 そして、6時の集合時間に集まることは…ない。 呼び出した比嘉晋也でさえ、来たのは6:40。 「おう俊幸、勝手に決めて悪いな」 「別にいいけど、適当に飲んで食ってろ」 それを気にもしない俊幸。 その後、7:00に新垣多香子。 7:30に、遅れると言った佐久本美優。 8:15に、比嘉健司が来た。 これが沖縄流の集いであり、普通なのである。 そして明け方まで一緒に過ごす。 「さて、みんな集まったから、よ〜く聞けよ」 「晋ちゃん、もう酔っ払いじゃない」 「いいから聞け!今度の縄フェスにぃ……」 「出れるんだろ、それがこれで俺ん家か?」 「晋ちゃん引っ張り過ぎよ💧」 「な!なんで知ってんだ💦」 「ネットに出場者リスト出てるし、インスタにも沢山お祝い来てるぜ」 「ネット?…(あみ)?インスタ?…ラーメンか?」 やっとスマホを手にしたばかりの晋也。 やっとLINEデビューしたばかりの…。 「原始人かよ、ウチのリーダーは💧」 「だいたい多香子が、大丈夫だって言ってたでしょ!外れるはずないわ」 「天気予報もテレビより当たるしな」 「何だよ…知ってんなら、言ってくれよ〜」 笑いながらボヤく晋也。 めでたいことには変わりない。 明け方まで宴は続いた。 やがて、騒ぎ疲れて寝た晋也。 そっと上着を掛ける多香子。 その寝顔を見つめていた、その時。 (えっ…何?…そんな、どうして⁉️) 思わず後退(あとずさ)り、つまづいて派手に転んだ。 頭の中が混乱し、体が震えている。 「多香子どうした?大丈夫?」 美優が慌ててそばに来た。 健司と俊幸も寄って来る。 「…大丈夫、私が守るから…」 ボソリと呟いて…気を失った。 美優が熱と脈を確認する。 「熱もないし、脈も正常。眠ったみたい」 美優の家は、小さな診療所であり、それなりの医学知識があった。 「な〜んだ、驚かせるなよ、全く」 「健司、とりあえず客間のベッドへ運ぼう」 多香子と晋也を交互に見る健司。 「ば〜か、多香子に決まってるだろ!」 「だよな」 多香子をベッドへ寝かせ、宴はお開きに。 健司と美優は帰って行った。
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