【3】未知の力

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〜国会議事堂〜 眉村首相の招集で、緊急閣僚会議が開かれた。 裏の主催者はラブである。 事態が分からず、騒めく会議場。 ラブがいることで、様々な憶測が飛び交う。 登壇したラブ。 その表情から、重要案件であると推測できた。 自然と騒めきが消えて行く。 「急な招集にご協力頂き、感謝します。私の時間が余りないので、眉村首相には失礼して、本題から始めます。会議には、地球・地質学界から専門家の方々にも来て貰いました」 3名が立ち上がり、周りに会釈する。 「先般起きた太陽の異常により、かなりの数の人工衛星を失いました。しかし幸いにして地上に於いては、被害は既に復興し、大きな問題は無くやり過ごせたかの様に思っていました」 そこでラブは、世界地図をモニターに映した。 各席に備え付けのタッチパネルにも映る。 「しかし深刻な問題が、地球の内部に起きていたのです」 海底を含め、知り得ている世界中の火山と火山帯が、地図に追加された。 8b967788-660c-4f6e-b03f-ac59b8643bb0 「太陽フレアの電磁波は、地球の中にあるマントルに影響を与え、世界中にある火山帯の活動を(うなが)す結果となりました」 予想外の話ではあったが、最近幾つかの火山で、警戒レベルについて報じられていたことを思い出す。 「世界には約1500の活火山があり、そのほとんどが環太平洋地帯に分布しています。日本にはその約10%があり、世界有数の火山国の一つです。柏田(かしわだ)教授、お願いします」 「国際地球研究所の柏田です。ラブさんが話した通り、今これらの火山が、いつ噴火してもおかしくない状況になりつつあります。日本で一番先に噴火すると考えられるのは、東京湾から南1,200km、小笠原諸島の南端にある硫黄島です」 小笠原諸島の地図が映る。 aa3cd361-0e02-482b-a12b-a2bdc4f3c21a 「硫黄島は海底火山の活動により、海底が隆起して出来た島です。南西端には摺鉢山(すりばちやま)がそびえ立っていて、2012年以降『火口周辺警報』が継続しています。最も問題視されているのは、マグマによる隆起が、4年に1mのハイペースを保っている点で、以前から破局的な噴火は時間の問題と言われていました」 地図で見る限りは遠く思え、破局的噴火がどう違うのかも知らず、まだ危機感が伝わっていない。 それを感じた柏田。 「破局的噴火とは、地下のマグマが一気に地上に噴出する、壊滅的な噴火形式を表します。これは、地球規模の環境変化や大量絶滅の原因となり得るものです。硫黄島で発生した場合、高さ25mほどの大津波が日本を襲うと予測しています」 津波の怖さは、十分過ぎるほど知っている。 25mの高さが持つ意味とその脅威も。 「さらに、全ての火山帯の活動が活発な今、一つの噴火が起爆剤となり、他の火山の噴火を誘発する可能性が高く、北は北海道の大雪山から、南は沖縄の西表島北北東海底火山まで、99の活火山が対象となり、あの富士山も含まれます」 浅間山、三宅島、御嶽山、阿蘇山、雲仙岳、桜島など、それぞれが思い浮かべていたが、富士山の名前を聞いた衝撃は大きかった。 一斉に騒めきが起こる。 「静粛に❗️」 眉村首相の一喝で、ピタリと止んだ。 「我々が慌てふためいてどうする。冷静になって、成すべきことを考える。それが使命です」 「眉村首相、ありがとうございます。柏田教授、代わります」 再び壇上に立つラブ。 「全てが噴火する訳ではありません。各地の火山帯で、最もマグマ溜まりが多い火山、或いは最も噴火し易い火山が一つ噴火すれば、他の火山の噴火は、理論的には回避できます」 会場に安堵のため息が起こる。 「この危機的事態は世界中で起きていて、私は昨日まで、国自体が火山帯のアイスランドを視てきました。既に国民はヨーロッパ諸国へ避難を開始している頃です」 ラブが空撮した映像に、水蒸気やガスの煙を上げる複数の火山が見てとれた。 「各国にもこの状況を伝え、最も被害が少なく、他の火山噴火を抑え得る火山を特定し、故意に噴火させる提案をしています。日本でも柏田教授を始め、専門家をTERRAに集め、検討を開始しました」 安堵の意識が増したのを感じる。 (まだ甘い…) 「皆さん。日本だけでも最低11の火山が噴火します。それも溜まったマグマを放出するに耐えられる火山です。例えば阿蘇山や御嶽山は仕方ないでしょう。この2つが破局的噴火をした場合、周囲50km圏内は壊滅し、風向きにもよりますが火山灰は東京にも達します。それが12ヶ所で起きる被害は計り知れません」 安堵の息を吹き消した。 「しかし…この噴火を止める策もTERRAと世界中の科学者と検討しています。まだ公表はできませんが、希望はゼロではありません。では、後の質疑は教授達にお任せして、私はこれで失礼します。国民を守るには、皆さんの協力が必要です。公表については皆さんに委ねますが、慎重にお願いします」 首相と閣僚達に一礼して、国会を後にした。 世界中の噴火が及ぼす環境への打撃と、タム山塊の件には、敢えて触れなかったラブである。
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