【3】未知の力

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〜TERRA〜 東京の街から東京湾、太平洋が見渡せる人気のスカイラウンジカフェ。 メンバー達と夕食を済ませた後、1人ラウンジに上がり、東京の夜景を眺めている比嘉晋也。 新垣多香子がいない時の、彼の様子が気になっていた佐久本美優。 「何を視たの?」 隣に座りながら、唐突に尋ねた。 驚きはしない比嘉。 「やっぱり美優にはバレてたか…」 「2人にある能力のことは、『龍神の(もり)』⛩の神主様から聞きました。まさか本当とは、つい最近まで信じていませんでしたが…視えるのね?」 佐久本美優は、龍神祭のために三線(さんしん)を習い、巫女の一人として務めていた。 神主と佐久本家は親戚であり、美優は幼い頃から神社で遊び、龍神について学んでいた。 「美優になら話してもいいか…。僕には、視ようと思う人の過去が視えるんだ。気が付いたのは、中学生になった頃」 佐久本も同じクラスであった。 「多香子が喧嘩(けんか)して、校長の孫にあたる同級生に、軽い怪我をさせて叱られていた時」 「宮脇さんね、私も見ていた。晋也は、悪いのは多香子じゃなくて宮脇さんだと言って、校長の怒りを逆撫でし、罰まで貰ってたわね」 「なんだ見てたのか…。あの時、叱られている多香子を見てたら、急に違うシーンがんだ。多香子は、宮脇にイジメられていた子を助けに入り、押し退けられた宮脇が、転んで肘を擦りむいた。多香子はイジメられていた子を逃がして謝るだけで、宮脇のイジメについても言わなかった…」 「多香子らしいわよね。でもあの一件から、宮脇はイジメを辞めた。結果的に多香子が厚生させたのよ」 「そうだな…あいつは誰にでも気を遣う性分だから」 「それで?最近悩んでるのは、多香子の何を視たからなの?」 全てお見通しの美優に、驚く比嘉。 「それが…きっと勘違いだと思うんだけど…。僕は銀行強盗に捕まってしまい、逃げていた多香子が止まって僕を見た時、不意に別のシーンが視えたんだ…でも…」 「いいから教えて。多香子には言わないし、一人で抱え込んでちゃダメよ」 「や…優しいんだな美優」 「えっ💦いや、ほら💦、そんな陰気な晋也なんて、らしくないし、見てるとこっちまで沈んじゃうから、それだけよ💦いいから、早く教えて!」 真顔で言われ、照れた美優。 「実はよく理解できないんだけど…高い所から落ちる僕に多香子が叫んでて、…かと思ったら、突然シーンが変わり、僕が床に倒れてる多香子に叫んでたんだ」 「……」考えてる美優。 「ダメ、何言ってんのか分かんないわ💧」 「やっぱりそうだよな…」 「そんな経験ないんでしょ?2人共ずっと元気だし、そんな事件知らないわよ私。あの時は思いもしない事態で、銃まで見たから、みんな混乱してたわ。事実上、きっと何かの勘違いよ、」 「だよな…やっぱり勘違いだな!美優、ありがとう。聞いて貰ったら、何だか楽になった」 「そんなことで悩んでたの?全くもう!さぁ、夜練に行くわよ」 佐久本は比嘉のことがずっと好きだった。 しかし、新垣と比嘉の間に入り込む隙はなく、そんな気もなかったのである。 〜第12専用スタジオ〜 2人が入ると、既にメンバーは集まっていた。 ベースには、時々ラブのステージにも参加している張本善次(はりもとよしつぐ)。 ドラムは、TERRAのソロシンガーの伴奏をしている沢渡美郎(さわたりよしろう)。 キーボードは、ピアノリサイタルを開く実力もある有栖川(ありすがわ)リナ。 いずれも20歳で、3人より歳は上だが、それが気にならない雰囲気を持っており、直ぐに打ち解け合えた。 「なかなかいいチョイスね、安心したわ」 「ラブさん!」 「録音は聴いたけど、ちょっと生で見ておきたくて。邪魔はしないからいいわよね?」 「邪魔だなんて💦直すところがあれば、ハッキリ指示して下さい」 「了解しました!」 (比嘉さん…何か吹っ切れた様ね。良かった) 比嘉に、沖縄の時と違う『心の(かげ)』を感じていたラブ。 新垣の方は、断ち切った様子で安心した。 それらが何かは、ラブにもなかった。 2曲を聴き、幾つかアドバイスはしたものの、十分満足してスタジオを後にした。 そこへ、スミス大統領と凛から電話が入る。 「大統領、決心して貰えましたか?」 「ラブさん、君が言うならそれが最善唯一の策なのだろう。こっちは何とかする。決行日が決まったら教えてくれ」 「分かりました。ではまた」 電話を切り、凛に掛け直した。 「分かったのね?」 「えぇ、アイと分析したところ、あの無人潜水艦は、ロシア北東部のサハリンが出発地点だと分かったわ。あそこには、古い海軍基地があったはず」 「やはりロシアね…ありがとう。あっちはどう?」 「今のところは動きなし。やはり、ヴェロニカの策略か?」 「いえ…彼女なら今頃、余裕で警告表明をしているはず。他のテロ組織の可能性が高いと思うわ」 「それもそうね。そっちは任せるから、こっちは任せて」 「頼りになるマネージャーね、よろしく」 電話を切ったラブの表情は険しい。 (ヴェロニカ…なぜ動かない?) ラルフ・ヴェロニカ。 ラブに命を救われて秘密を知り、それ以来ラブの組織に加わり、表向きはマネージャーをしていた、元仲間の考古学者。 訳あって、今はラブの最大の敵となっていた。
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