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〜TERRA〜
東京の街から東京湾、太平洋が見渡せる人気のスカイラウンジカフェ。
メンバー達と夕食を済ませた後、1人ラウンジに上がり、東京の夜景を眺めている比嘉晋也。
新垣多香子がいない時の、彼の様子が気になっていた佐久本美優。
「何を視たの?」
隣に座りながら、唐突に尋ねた。
驚きはしない比嘉。
「やっぱり美優にはバレてたか…」
「2人にある能力のことは、『龍神の杜』⛩の神主様から聞きました。まさか本当とは、つい最近まで信じていませんでしたが…視えるのね?」
佐久本美優は、龍神祭のために三線を習い、巫女の一人として務めていた。
神主と佐久本家は親戚であり、美優は幼い頃から神社で遊び、龍神について学んでいた。
「美優になら話してもいいか…。僕には、視ようと思う人の過去が視えるんだ。気が付いたのは、中学生になった頃」
佐久本も同じクラスであった。
「多香子が喧嘩して、校長の孫にあたる同級生に、軽い怪我をさせて叱られていた時」
「宮脇さんね、私も見ていた。晋也は、悪いのは多香子じゃなくて宮脇さんだと言って、校長の怒りを逆撫でし、罰まで貰ってたわね」
「なんだ見てたのか…。あの時、叱られている多香子を見てたら、急に違うシーンが視えたんだ。多香子は、宮脇にイジメられていた子を助けに入り、押し退けられた宮脇が、転んで肘を擦りむいた。多香子はイジメられていた子を逃がして謝るだけで、宮脇のイジメについても言わなかった…」
「多香子らしいわよね。でもあの一件から、宮脇はイジメを辞めた。結果的に多香子が厚生させたのよ」
「そうだな…あいつは誰にでも気を遣う性分だから」
「それで?最近悩んでるのは、多香子の何を視たからなの?」
全てお見通しの美優に、驚く比嘉。
「それが…きっと勘違いだと思うんだけど…。僕は銀行強盗に捕まってしまい、逃げていた多香子が止まって僕を見た時、不意に別のシーンが視えたんだ…でも…」
「いいから教えて。多香子には言わないし、一人で抱え込んでちゃダメよ」
「や…優しいんだな美優」
「えっ💦いや、ほら💦、そんな陰気な晋也なんて、らしくないし、見てるとこっちまで沈んじゃうから、それだけよ💦いいから、早く教えて!」
真顔で言われ、照れた美優。
「実はよく理解できないんだけど…高い所から落ちる僕に多香子が叫んでて、…かと思ったら、突然シーンが変わり、僕が床に倒れてる多香子に叫んでたんだ」
「……」考えてる美優。
「ダメ、何言ってんのか分かんないわ💧」
「やっぱりそうだよな…」
「そんな経験ないんでしょ?2人共ずっと元気だし、そんな事件知らないわよ私。あの時は思いもしない事態で、銃まで見たから、みんな混乱してたわ。事実上、きっと何かの勘違いよ、気にしないでいいわ」
「だよな…やっぱり勘違いだな!美優、ありがとう。聞いて貰ったら、何だか楽になった」
「そんなことで悩んでたの?全くもう!さぁ、夜練に行くわよ」
佐久本は比嘉のことがずっと好きだった。
しかし、新垣と比嘉の間に入り込む隙はなく、そんな気もなかったのである。
〜第12専用スタジオ〜
2人が入ると、既にメンバーは集まっていた。
ベースには、時々ラブのステージにも参加している張本善次。
ドラムは、TERRAのソロシンガーの伴奏をしている沢渡美郎。
キーボードは、ピアノリサイタルを開く実力もある有栖川リナ。
いずれも20歳で、3人より歳は上だが、それが気にならない雰囲気を持っており、直ぐに打ち解け合えた。
「なかなかいいチョイスね、安心したわ」
「ラブさん!」
「録音は聴いたけど、ちょっと生で見ておきたくて。邪魔はしないからいいわよね?」
「邪魔だなんて💦直すところがあれば、ハッキリ指示して下さい」
「了解しました!」
(比嘉さん…何か吹っ切れた様ね。良かった)
比嘉に、沖縄の時と違う『心の陰』を感じていたラブ。
新垣の方は、断ち切った様子で安心した。
それらが何かは、ラブにも読めなかった。
2曲を聴き、幾つかアドバイスはしたものの、十分満足してスタジオを後にした。
そこへ、スミス大統領と凛から電話が入る。
「大統領、決心して貰えましたか?」
「ラブさん、君が言うならそれが最善唯一の策なのだろう。こっちは何とかする。決行日が決まったら教えてくれ」
「分かりました。ではまた」
電話を切り、凛に掛け直した。
「分かったのね?」
「えぇ、アイと分析したところ、あの無人潜水艦は、ロシア北東部のサハリンが出発地点だと分かったわ。あそこには、古い海軍基地があったはず」
「やはりロシアね…ありがとう。あっちはどう?」
「今のところは動きなし。やはり、ヴェロニカの策略か?」
「いえ…彼女なら今頃、余裕で警告表明をしているはず。他のテロ組織の可能性が高いと思うわ」
「それもそうね。そっちは任せるから、こっちは任せて」
「頼りになるマネージャーね、よろしく」
電話を切ったラブの表情は険しい。
(ヴェロニカ…なぜ動かない?)
ラルフ・ヴェロニカ。
ラブに命を救われて秘密を知り、それ以来ラブの組織に加わり、表向きはマネージャーをしていた、元仲間の考古学者。
訳あって、今はラブの最大の敵となっていた。
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