【4】暗の攻防

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説明に没頭するサヴィラム。 「我々はタム山塊に類似した、カムチャッカ半島沖の海底火山で、噴火に至るまでの温度変化を解析しました」 モニターにデータと、海底火山の噴火映像が映し出される。 「その結果、通常20〜50℃の火口温度が、100〜200℃に急激に上昇し、1000℃を超える噴火に至ることが分かりました。これをタム山塊の実形態でシミュレーションしています」 「なるほど…起爆のタイミングは、温度上昇率で決まるということね」 理解の早い者への説明は、技術者の弁に熱を加え、専門分野に於いては促進剤となる。 「はい。精密な温度センサーで噴火を事前に感知し、自動で一次爆発装置の原爆と、二次爆発装着である核融合装置が作動します」 「核ミサイルの様な、瞬時の過大な衝撃ではなく、自動制御か…」 わざと不安気に、言葉のトーンを落とす。 「お言葉ですが将軍、核融合には、衝撃をトリガーとする核ミサイルより、我々の自動制御の方が、遥かに確実な爆破が可能でございます」 ICBM(大陸間弾道ミサイル)に搭載されている、核弾頭の図が映る。 d2c41b09-6797-45e9-a01d-b13f909f4449 「確かに。しかし今…世界中の火山帯が危機的状況にあることは、当然知っているわよね?」 「⁉️」 知らないことが瞬時に顔に表れ、苦笑いで誤魔化すハミルトン達。 「もし今、太陽系最大の海底火山とまで言われたタム山塊が、破局的噴火を起こしたら、太平洋プレートにも響き、全世界にある1500の活火山の起爆剤になる可能性が高い。それが何を意味するか分かるか?」 火山の専門家はいない。 黙り込む面々。 「例えば、アメリカにある世界最大級のイエローストーンが、破局的噴火を起こした場合。大量の火山灰が3日でヨーロッパまで広がり、半径1000km以内の90%の人が火山灰で窒息死し、成層圏を覆った火山灰により、地球の気温は10度下がり、その寒冷気候は6年から10年間続くと分析されている。たった1つの火山でだ」 つまりは、地球上の陸地に生きる生物は、絶滅の危機を迎えることを意味した。 全く想定外のことに、言葉もない彼等。 軽蔑の眼差(まなざ)しで、ヴェロニカが付け足す。 「それに。水爆の発生させる大量の水蒸気で、タム山塊が破局的噴火の大爆発を起こした場合、高さ100mを超える津波により、太平洋沿岸から100km以上が壊滅し、数千億人が…死ぬ」 これも彼等の想定を遥かに超えていた。 世界最高頭脳と言われるヴェロニカの言葉に、疑う余地は無い。 「私はHEAVENを引き継いだが、父ラルフの様に、人類滅亡など望みもしない。従って、お前達の様な無差別テロ集団では無い❗️」 強い言葉にたじろぐハミルトン達。 咄嗟に数人の銃口がヴェロニカへと向く。 「ミネルヴァ、ツヴェンサー。ここは任せた」 銃口を気にもせず立ち上がり、出口へ向かうヴェロニカ。 「待て!知られたからには、撃つぞ❗️」 そう言った瞬間。 ミネルヴァの剣が、近くの衛兵の銃を腕ごと切断し、ツヴェンサーの銃が3人の頭を撃ち抜いた。 動揺した兵に、この2人を止める力はない。 瞬く間に、剣と銃の餌食となった。 「しまった、その技術者は…」 ヴェロニカが振り向いた時には、ハミルトンの首から上は無く、サヴィラムの額には赤い点が生まれていた。 「将軍、何か?」 「…いや、何でもない💧」 (い…いい腕前ね) そのまま出て行くヴェロニカ。 剣の血を拭き、銃に弾を込め、後に続く2人。 ヘリに戻ると、サルコフが報告した。 「ザイールと制圧完了、7分です」 「待たずに起動を?」 「銃声が聞こえましたので、何か?」 「…いや、ご苦労💧」 (全く…よくできた仲間ね) 2機のヘリは北西へ向け、飛び立って行った。 サンクトペテルブルクへ電話をかけるヴェロニカ。 「起爆は熱感知式と分かったから、よろしく」 「了解。感震式から熱感知式に変更します。成功すると良いですね、将軍」 「してもらわないと困る。着いたら連絡を」 電話を切り、遠い日本の空へと目を向ける。 (今頃は、また世界を救うために…) 過去の仲間達を想うヴェロニカであった。 飛び立ってから約5分後。 「ラブ、今サハリン基地の上空に着いたが…熱感知映像に人らしきものはない様だ。妙だな…」 「ティーク、罠かも知れないから気をつけて」 ティーボラック、通称ティーク。 ラブを(まも)り、共に戦う仲間である。 片目には、透視できる『スパイアイ』を持つ。 降下を始めた時。 「ドドドーンッ💥💥❗️」 戦艦から、激しい爆炎が上がった。 回避するティーク。 「ラブ、停泊中の戦艦が、ど派手に爆発したぜ。罠のタイミングミスか?」 「変ね…証拠の隠滅かも知れないわ。直ぐに軍が来るだろうから、高度を上げ、悪いけど帰還して」 「了解。面倒はごめんだ」 ふと見たレーダー画面の端に、何かが見えた気がした。 特に気にせず、レーダー探知不能な高度まで一気に上昇し、東京を目指すティーク。 遠く東の空を見つめる。 (ヴェロニカは今頃…) 共に戦った仲間でもあり、想い合った2人。 戦場で顔を合わせないことを祈った。
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