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〜TERRAミュージックホール〜
ビルの地下1階から5階と併設された、コンサートホールでは、ラブのチャリティーコンサートが開催されていた。
大盛況の中、前半の7曲を歌い終えたラブ。
「ふぅ〜💕」
大きく一息つくだけで、会場から笑いや、声援が飛び交う。
「ありがとう皆んな。ここで、プログラムにはないんだけど…私の秘密兵器を紹介してもいいかな?」
大歓声がそれに応える。
舞台裾でスタンバイしている美優。
その瞳が、ラブを凝視していた。
「オー❣️って、イエスだよね。遥々沖縄から、素敵な曲と歌声を連れて来ました。既に世界中にフォロワーが大勢いて、知っている人も多いと思います」
わざと間を取り、騒めく推測の声の中に、彼らの名前が聞こえた。
「本日TERRAミュージックからメジャーデビューします。チムグクルの皆さんです❣️皆んなよろしく〜」
盛大な拍手が湧き起こり、照明が消えた。
徐々に鎮まりゆく会場。
どこからか波の音が聞こえる。
潮風の香りが漂い始め、三線の音色が一音一音、響き渡って行く。
淡いスポットライトが、美優と多香子を照らし、透き通った柔らかで、それでいて力強さも感じる歌声。
沖縄民謡、島唄の一節が終わる。
ドラムとギター、ベース、三線、ピアノが一斉に響き出した瞬間、花火と眩しいくらいの光が6人を照らした。
待っていたかの様に、大歓声と拍手が彼らを包み込んで行く。
「みんな、ついに沖縄からやってきましたー❗️チムグクル、よろしくお願いしま〜す❣️」
オー❣️と、声援がそれに応える。
軽やかで陽気な曲に、三線の音色が、他にはない独特の世界を創る。
その頃、舞台裏では何かを探しているラブ。
メイクと衣装係が少し慌てる。
「どうしました?ちょっと動かないで💦」
「ベルトに着けてた通信機がないのよね…」
「ラブさん!あれじゃないですか?」
ステージを確認していた下村が指差した。
歌う多香子の少し後ろに落ちている。
「あっちゃ〜💦」
(どうして…落ちた?)
いつもステージ中はベルトに着け、激しい動きでも落ちないマグネットロックが付いている。
この時間に、凛と連絡を取る予定であった。
通信機からラブを呼ぶ凛の声が、虚しく繰り返されていた。
「予備は持って来てないのよね…」
(落としたなんて言ったら殺されるわ💦)
「ラブさん、次曲のセットをプランBに変えます。曲の合間に、花火と激しい閃光で観客の目は少しの間見えなくなります。タラップが出て比嘉さんが登ると照明が消え、スポットライトが照らすので、その隙に!」
複雑なセットにはトラブルがつきものであり、必ず別のパターンを準備していた。
「助かるわ〜下村さん。秒で駆け抜けるから」
スタッフに連絡し、比嘉に合図を送る下村。
リズムに合わせてうなずく比嘉。
準備完了の合図を受けた比嘉。
伴奏の終了を告げるコードを鳴らす。
照明がフェードアウトする中、曲が終わった。
その瞬間、ステージ前から花火が上がり、閃光が爆発した。
メンバーは目を閉じて回避する。
視界を失いながらも、曲と演出にテンションが上がる狂気の歓声。
ふと、聞いていないセットに目をやる多香子。
比嘉専用のもので、多香子は知らない。
(そんな⁉️)
タラップを見た瞬間、走り出し、比嘉を押し退けて駆け上がる。
「おい❗️多香子⁉️」
スポットライトが照らした瞬間。
足場が外れ、ライトから消える多香子。
(さよなら…晋ちゃん)
落下しながら目を閉じる。
そこへ、瞬時に向きを変えたラブが滑り込む。
「ガッ!…ドサッ!」
(えっ⁉️)
慌てて指示を出す下村。
ステージ前にスモークを立て、プロジェクションマッピングと音楽で誤魔化した。
「多香子❗️」
駆け寄った比嘉が多香子の顔を見下ろす。
(これって…あの時に見た…)
「晋…ちゃん?私…生きてる」
その下で…
「ゴメンゴメン凛。色々あって遅れたわ💦」
ギリギリで通信機を掴み取っていたラブ。
落下する多香子の下へと滑り込み、落ちて来た足場を蹴り飛ばして抱きとめていた。
「もう…どいて貰えるかしら💦」
「ラブさん⁉️ごめんなさい💦」
状況が分かり、慌てて立ち上がる多香子。
「いいからあと1曲。皆んなが待ってるわ。プロならステージでは私情よりお客様よ❣️」
笑顔でうなずくラブ。
その耳で、凛の声が響く。
『あなたは私情より私でしょ❗️全く…』
見えない様にステージを出るラブ。
「こっちも危機だったのよ💧」
反論をしながら、手を重ねる3人を見た。
(なるほど…そういうことね)
『ちょっと!聞いてる?』
「あっ!聞いてるわよ💦倉庫には何が?」
「あっ!って何よ?もう!…あの橋詰って奴、一体何者?ビルでは3人を撃ち殺し、倉庫には現金と大量の武器があったわ。それから、橋詰はニセモノね。確か…ミゲルとか呼ばれてたわ」
「ミゲル⁉️本当に?間違いはない?」
凛に間違いなどないことは分かっている。
「と…とりあえず帰るわ。詳しい話は後で」
動揺したラブの声を、初めて聞いた凛であった。
「了解。お疲れ様、凛」
通信を切ったラブの顔が険しくなる。
(ミゲル…まさか?)
ステージからは、優しさに満ちたメロディと歌声が聞こえていた。
その裏側で、世界に絶滅の危機が迫っていることなど、知る由もない。
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