【4】暗の攻防

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〜TERRAミュージックホール〜 ビルの地下1階から5階と併設された、コンサートホールでは、ラブのチャリティーコンサートが開催されていた。 大盛況の中、前半の7曲を歌い終えたラブ。 「ふぅ〜💕」 大きく一息つくだけで、会場から笑いや、声援が飛び交う。 「ありがとう皆んな。ここで、プログラムにはないんだけど…私の秘密兵器を紹介してもいいかな?」 大歓声がそれに応える。 舞台裾でスタンバイしている美優。 その瞳が、ラブを凝視していた。 「オー❣️って、イエスだよね。遥々沖縄から、素敵な曲と歌声を連れて来ました。既に世界中にフォロワーが大勢いて、知っている人も多いと思います」 わざと間を取り、騒めく推測の声の中に、彼らの名前が聞こえた。 「本日TERRAミュージックからメジャーデビューします。チムグクルの皆さんです❣️皆んなよろしく〜」 盛大な拍手が湧き起こり、照明が消えた。 徐々に鎮まりゆく会場。 どこからか波の音が聞こえる。 潮風の香りが漂い始め、三線(さんしん)の音色が一音一音、響き渡って行く。 淡いスポットライトが、美優と多香子を照らし、透き通った柔らかで、それでいて力強さも感じる歌声。 沖縄民謡、島唄の一節が終わる。 ドラムとギター、ベース、三線、ピアノが一斉に響き出した瞬間、花火と眩しいくらいの光が6人を照らした。 待っていたかの様に、大歓声と拍手が彼らを包み込んで行く。 「みんな、ついに沖縄からやってきましたー❗️チムグクル、よろしくお願いしま〜す❣️」 オー❣️と、声援がそれに応える。 軽やかで陽気な曲に、三線の音色が、他にはない独特の世界を創る。 その頃、舞台裏では何かを探しているラブ。 メイクと衣装係が少し慌てる。 「どうしました?ちょっと動かないで💦」 「ベルトに着けてた通信機がないのよね…」 「ラブさん!あれじゃないですか?」 ステージを確認していた下村が指差した。 歌う多香子の少し後ろに落ちている。 「あっちゃ〜💦」 (どうして…落ちた?) いつもステージ中はベルトに着け、激しい動きでも落ちないマグネットロックが付いている。 この時間に、凛と連絡を取る予定であった。 通信機からラブを呼ぶ凛の声が、虚しく繰り返されていた。 「予備は持って来てないのよね…」 (落としたなんて言ったら殺されるわ💦) 「ラブさん、次曲のセットをプランBに変えます。曲の合間に、花火と激しい閃光で観客の目は少しの間見えなくなります。タラップが出て比嘉さんが登ると照明が消え、スポットライトが照らすので、その隙に!」 複雑なセットにはトラブルがつきものであり、必ず別のパターンを準備していた。 「助かるわ〜下村さん。秒で駆け抜けるから」 スタッフに連絡し、比嘉に合図を送る下村。 リズムに合わせてうなずく比嘉。 準備完了の合図を受けた比嘉。 伴奏の終了を告げるコードを鳴らす。 照明がフェードアウトする中、曲が終わった。 その瞬間、ステージ前から花火が上がり、閃光が爆発した。 メンバーは目を閉じて回避する。 視界を失いながらも、曲と演出にテンションが上がる狂気の歓声。 ふと、聞いていないセットに目をやる多香子。 比嘉専用のもので、多香子は知らない。 (そんな⁉️) タラップを見た瞬間、走り出し、比嘉を押し退けて駆け上がる。 「おい❗️多香子⁉️」 スポットライトが照らした瞬間。 足場が外れ、ライトから消える多香子。 (さよなら…晋ちゃん) 落下しながら目を閉じる。 そこへ、瞬時に向きを変えたラブが滑り込む。 「ガッ!…ドサッ!」 (えっ⁉️) 慌てて指示を出す下村。 ステージ前にスモークを立て、プロジェクションマッピングと音楽で誤魔化した。 「多香子❗️」 駆け寄った比嘉が多香子の顔を見下ろす。 (これって…あの時に見た…) 「晋…ちゃん?私…生きてる」 その下で… 「ゴメンゴメン凛。色々あって遅れたわ💦」 ギリギリで通信機を掴み取っていたラブ。 落下する多香子の下へと滑り込み、落ちて来た足場を蹴り飛ばして抱きとめていた。 「もう…どいて貰えるかしら💦」 「ラブさん⁉️ごめんなさい💦」 状況が分かり、慌てて立ち上がる多香子。 「いいからあと1曲。皆んなが待ってるわ。プロならステージでは私情よりお客様よ❣️」 笑顔でうなずくラブ。 その耳で、凛の声が響く。 『あなたは私情より私でしょ❗️全く…』 見えない様にステージを出るラブ。 「こっちも危機だったのよ💧」 反論をしながら、手を重ねる3人を見た。 (なるほど…そういうことね) 『ちょっと!聞いてる?』 「あっ!聞いてるわよ💦倉庫には何が?」 「あっ!って何よ?もう!…あの橋詰って奴、一体何者?ビルでは3人を撃ち殺し、倉庫には現金と大量の武器があったわ。それから、橋詰はニセモノね。確か…ミゲルとか呼ばれてたわ」 「ミゲル⁉️本当に?間違いはない?」 凛に間違いなどないことは分かっている。 「と…とりあえず帰るわ。詳しい話は後で」 動揺したラブの声を、初めて聞いた凛であった。 「了解。お疲れ様、凛」 通信を切ったラブの顔が険しくなる。 (ミゲル…まさか?) ステージからは、優しさに満ちたメロディと歌声が聞こえていた。 その裏側で、世界に絶滅の危機が迫っていることなど、知る由もない。
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