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【5】護る者
〜TERRA〜
1階の奥にある応接室7。
ラブからの呼び出しで集まった、比嘉と新垣、佐久本の3人。
「呼び出してごめんね〜。あなた達の曲はあらゆる首位を独占してて、改めて凄いと思うわ」
チムグクルの思いやりと優しさに満ちた歌詞と、心に染み渡るメロディは、世界中の人の心を癒し、勇気付けていた。
「僕たちもびっくりです。まさかラブさんと首位を競うなんて、思っても見なかったから」
「晋ちゃん、ラブさんは別格だし、首位なんて競う気もないわよ、失礼でしょ!」
新垣にいつも叱られる比嘉。
「アハハ。でも意外と負けず嫌いなのよ私」
「えっ⁉️」
身を乗り出したラブに戸惑う2人。
思わず目を逸らす。
「バカ、冗談に決まってるじゃない」
それを佐久本があっさりと見破る。
ニヤリと笑むラブ。
「さすがね美優さんは。とにかく、あなた達の曲は、あなた達が思っている以上にいいのよ。そして…今の世界に必要なものなの」
真顔のラブに、佐久本も身を引いた。
「もうあまり猶予がないから、真実を話すわ。まずは、あなた達に謝らなければならないことがあります」
もういつもの笑顔はない。
「笑われるかもしれないけど…私は少し前に、多分…悪魔と戦ったの」
「あ…悪魔?」
笑える雰囲気ではない。
「そう、本物のね。そして、TERRAの仲間が1人増えた。KANNAと言う不老不死の体と、悪魔から魔力を受け継いだ魔女」
話の意図が分からない比嘉。
ラブを見つめて困惑する新垣。
目を閉じて聞いている佐久本。
「今。世界は滅亡の危機に遭遇しようとしています。恐らく、もうあまり猶予はない。佐久本美優さん。あなたは、私があなた達を呼んだもう一つの理由を知ってるわね?」
2人が佐久本を見る。
「概ねは。しかし、それが何なのか?詳しくは分かりません。ただ、私たちが必要だと言うことは分かってました」
「美優、何のことだ?」
不安が膨らみ、比嘉が答えを求める。
「KANNAがその危機を教えてくれて、日本には古来から護る者がいると…。私は龍神の杜へ導かれ、話を聞きました」
「龍神様の伝説…ですか?」
真顔で、新垣が確認し、うなずくラブ。
「護りが必要となった時、稲妻と共にこの地に現る伝説の龍神。片方の目は未来を、もう片方の目は過去を視る。龍神祭の嵐の夜、落雷と共に生まれた2人…いえ、3人」
「さ、3人?僕と多香子はそう聞いたけど、もう1人いたなんて…まさか美優がその1人なのか?」
真っ直ぐにラブを見つめる佐久本美優。
「新垣さん、あなたには未来が視え、比嘉さんは過去が視える。ですよね?」
2人共、美優にしか話していないこと。
それを知っているラブ。
「不思議なんでしょ?私の未来と過去が見えないこと」
視ようと思わないようにして生きてきた2人。
しかし今、ラブを知ろうとしたが…何も視えなかった。
「ラブさんは、この星の者ではないから。同じ場所にいながら、別の時空を生きている存在。だから視えないのよ」
佐久本美優が、その理由を告げた。
「その通り。私にはこの星の約70年が1年。これは誰にも話してはいないこと。そして、私にも不思議なことに、あなた達の心が視えない。意図的に或いは意図せず心を閉ざす者はいますが…あなた達は違う。お互い特別な存在ね」
ラブの話は、不思議と素直に受け入れられた。
何の疑念すら抱くことなく。
「分からないのは、佐久本美優さん。あなたの存在。味方なのか敵なのか?或いはどちらでもない者なのか」
タブレットPCを開き、先日のコンサート画像を流すラブ。
「あなた達とステージを交代した時、私はベルトに付けていた通信機が無いことに気付いた。どんな激しい動きでも、外れるはずのないものなのよね〜。その謎の答えはこれ」
画面にタッチして動画を止めた。
「まさか自分で外して落としてたなんて、思いもしなかったわ」
ラブが右手を腰のベルトに回していた。
画面のコントローラで、スロー再生する。
ベルトに付いていた物に手をやり、直ぐに床に落とすラブ。
「気が付かなかったんですか?」
単純に反応する比嘉。
「気が付けなかったのよ。私の意思ではないかったからね」
「もし…ラブさんがあの時、通信機を落としていなかったら私は…」
新垣がその意味に気付いた。
「新垣さん。あなたは恐らく、比嘉さんがタラップから落下することを知っていた。あのセットは比嘉さんしか知らないもの。慌てて自分が代わりに登って落ちた。だよね?」
チラッと佐久本を見る新垣。
「待てよ!それは過去の出来事のはずだ。…覚えてはいないけど」
「比嘉さんが視たのは、その未来を視た荒垣さんの過去の記憶ね」
「えっ?…あれは、多香子が過去に見た…未来の出来事ということ?」
「そう。その未来に、私も引き込まれてしまったわ。新垣さんを助けるためにね。思い返せば、TERRAのステージで沖縄民謡の三線の音色に惹かれた時から、私は導かれてたのかも知れないわね」
以前開かれた、日本の音楽文化を伝える催しに、沖縄代表の一団として来ていた佐久本。
当時の佐久本には、そんな策略は微塵もなく、それは別の力が働いた、運命だったのかも知れない。
「美優…」
2人が佐久本を見る。
「気付かれちゃったわね。さすがラブさんです。何故かは分からないけど…私は、比嘉さんが見た過去と、新垣さんが視た未来を操ることができるの。2人は故意に視ないようにしてるけど、無意識の内に沢山のものを視ている。その運命もね」
「凛から聞いたけど、銀行強盗を操り、仲間を撃たせたのもあなたね?」
うなずく佐久本。
「つまり、2人を導き護る者…と言うわけ…か?ふぅ〜良かったぁ。あなたが敵じゃなくて」
心底ホッとしているラブに、少し緊張感が緩む3人。
「比嘉さん、新垣さん。本当にごめんなさい。でもこれが私たち3人の使命なの。ラブさんが謝る必要はありません。全て私が導いたことだから…」
「ありがとう、佐久本さん。あなた達を危険な目には合わせない。でも、その力を貸して欲しい」
佐久本はもとより、既に比嘉と新垣も決めていた。
「この能力が役に立つなら、好きに使ってください。ねっ、晋ちゃん」
「うん。それでこの国が護れるなら、全力を尽くします」
ラブの目を見る比嘉、荒垣、佐久本。
4人は、同時にうなずいた。
「じゃあついて来て、あなた達には酷なものになるけど…まずはこの国の現実を知って貰います」
立ち上がり、部屋の奥にある隠し扉を開いた。
そこには、地下20mの極秘本部へ繋がるエレベーターがあった。
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