【1】遺恨の地より

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〜沖縄セルラースタジアム那覇〜 沖縄アマチュアバンドフェスティバル当日。 2万人収容の客席は、満席状態である。 今年もゲストには、沖縄出身の歌手が2組来ており、県外からの客も少なくない。 「スッゲー❗️楽屋付きかよ」 入るなり晋也のテンションが上がる。 もちろん『チムグクル』にとっては、初の大舞台であった。 「ヤバ、緊張してきた」 「健司らしくないこと言うなよ、俺も我慢してんだから💦」 「全くトシまで。普通にやればいいのよ」 ステージは慣れている三線(さんしん)の美優。 「あれ、多香子は?」 いないことに気付いた晋也。 「先にステージを見て来るって言って、走ってったわよ」 「ふ〜ん…俺はやめとこ。もう観客がいるだろうから、見たら緊張しそう」 「晋也に緊張なんて、あり得ないだろう」 「既にそのテンション…あり得ないな」 などと話してるとこへ、多香子が入って来た。 「凄い、こんな広い控え室だなんて!」 「どうだったの、ステージ?」 「えっ、ああ…うん、大丈夫だったわ」 ホッとしている多香子。 「大丈夫って何だよ、大勢いたか?」 「いたいた、満席みたい!」 (ステージのセットを確認したのか…) 朝からイマイチな感じが気になっていた晋也。 「ヨッシャー!ぶちかまそうぜ❗️」 「アッハハ。晋ちゃん、うちらの曲はそんなんじゃないでしょ」 その笑顔が見たかった。 (よし、大丈夫だな) 「もうすぐ、リハスタジオの番だから、準備しましょ」 冷静な美優に、いつも感謝している皆んな。 それぞれに準備を始めた。 〜スタジアム管理事務所〜 オーナーで、フェス主催者の宮城琢磨(みやしろたくま)が、VIP対応で客を迎え入れる。 「今年も多大なるご寄付と支援を、ありがとうございます。ようこそ、トーイ・ラブ様」 「いえ、こちらこそ急にお願いしてすみません。宮城さんのミュージシャンへの想いには、頭が下がります」 エンターテイメント会社、TERRA(テラ)コーポレーションの社長でありながら、シンガーソングライター&女優として、世界的な大スターのラブ。 このフェスへの参画と沖縄訪問は、別の目的も含んでいた。 「いやいや、ラブさんに比べたら、私なんて大したものではありませんよ。一生懸命に頑張っている彼らの夢を、そして平和への想いを世界に発信して、自己満足に浸っているだけです」 近年は、世界へ無料ライブ配信も行っていた。 フェスのコンセプトは、平和への祈りと誓い。 参加アーティスト達は、それぞれにその想いを曲にして、世界へ届けるのである。 国連や政界にも通じ、世界の平和活動を推進しているラブにとっては、そのコンセプトこそが惹かれた理由の一つであった。 「さて、そろそろ始まりますので、私はこれで失礼します。最後まで楽しんでいって下さい」 「はい。そのつもりです」 固い握手を交わして、部屋を出る2人。 宮城はステージへ、ラブは特設観覧室へと向かった。
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