【5】護る者

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〜TERRA特別会議室〜 55階にある特別会議室には、沢山のカメラ付きモニターが、テーブル席の左前から右前までを囲む様に並び、世界各国と繋がっている。 そのテーブルの前に立つラブ。 火山の有無に関係なく、196ヶ国中の155国の首脳陣が参加していた。 メインの会話は、アイが瞬時に各国へ通訳し、各国はタッチモニターで言語を選べた。 「緊急の呼び掛けに、皆さんお集まり頂き、ありがとうございます。真夜中の国もあると思いますが、あまり猶予がなく、ご理解下さい」 ラブが会議を始めた。 各国から同意の言葉が届く。 「皆さんはもうご存知と思いますが、今全世界の火山帯が危険な状態にあります。原因は、先の太陽フレアがもたらした電磁波に、地球内のマントルに流れる電流が反応したものと考えます。すでにアイスランドは複数の火山により、全国民が近隣諸国に避難しています」 対処の施し様がなかったアイスランドは、そのほぼ全土をマグマと火山灰に覆われ、この先数百年は、人が住める環境ではなくなっていた。 「それにより、アイスランド氷河は全て溶解すると見られ、加えてグリーンランドの氷河も影響を受け、海面は平均500mm上昇すると算出しています」 500mmの上昇が世界に及ぼす影響は大きい。 各国の専門家達が、騒ついているのが分かる。 「南極のエレバス山の噴火は、最小限に抑えられましたが、近隣の基地は壊滅的打撃を受けています。しかし、それより更に重大な問題が判明しました」 画面に南極大陸の衛星写真が映り、赤い円が浮かび上がる。 「南極点から南米大陸方向へ約1500km地点を中心に、周囲1000km範囲にマグマによる温度上昇が認められました」 「そんなバカな?NASAの観測ではそんな情報はない!」 「エヴァン長官、マグマは厚さ約4kmの氷の下です。通常の観測では分かりません」 「その辺りは氷が厚すぎて、火山の有無が分からなかった場所だ。まさかこんなところに、巨大な火山地帯があったとは…」 チリのプエルトモントに避難した、マクマード基地のローガン隊長が苦言を噛み潰した。 「火山活動はまだ続いており、このままだと、巨大な氷床が、海へ流れ落ちることになります」 「ラブさん。私にはその脅威がどれ程のものか、分からないのだが…」 アメリカのスミス大統領の言葉に、ほとんどの国が反応していた。 「これは、TERRAでシミュレーションしたものです。未経験の事象につき、計測データと理論からの推測ですが、御覧ください」 アイがシミュレーションした映像が流れる。 実際の衛星画像を使っているため、かなりリアルなものになっていた。 赤い丸で示された部分から亀裂が走り、そこから海側にある氷が、ゆっくりと海へと動いていく。 巨大な大陸のほぼ4分の1である。 あまりの規模の大きさに、世界が息を呑んだ。 「面積的には約25%ですが、この辺りの氷の厚さは3kmを超える部分が広く、質量的には50%近くになります。もちろん、直ぐに全てが溶ける訳ではありません。しかし、縦横2000km、高さ平均3kmの超巨大な氷床です。底半分はマグマにより溶け、残りは氷山として浮かび、海面は平均的にみて10〜20mほど上昇すると考えられます」 絶望的な数値である。 「猶予はどのくらいなんだ?島や沿岸部の人々を避難させねば」 「既に氷の大地に亀裂が起きていて、2日か3日後には動き出すかと…。そこで皆さん、このあと私が書いた、各国用の記名入り公開文を送信します。間違った情報を防ぎ、統一的な方針で、正確な状況と避難について伝えるためです。ご了承願えますか?OKの国はモニター画面のボタンを押してください」 各国が相談を始める。 結論は早く、全ての国が了承した。 「おそらく他国も同じだろう。ラブさん、辛くて難しいことだが、君への信頼は…私達より高いと思われる。それに世界の事態を一番掌握しているのも、救えるのも君だ。何もかもを背負わせて申し訳ない。また力を貸してください」 スミス大統領に続いて、全モニターがその意向を示した。 「ありがとうございます。皆さんは、できればそれをそのまま各報道機関に流し、自国及び近隣諸国の避難を最優先に動いてください。スミス大統領、また太平洋艦隊をお借りしても?」 「ああ、もちろん構わん。好きに使ってくれ。それに…私より君の指示を優先するだろうからな💧」 苦しい中にも、アメリカ人らしい軽いブラックジョークが、世界を和ませた。
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