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トリノビーム砲の威力は、ナスカを始め、何か所かの攻撃実績から、強大とは承知していた。
しかし…その真相は知るはずもない。
「ところで、どうやって南極の氷を止めるのだ?」
イタリアのアミントレ大統領の問いに、他国も会話をやめてラブへと向く。
「トリノビーム砲で、海岸部から火山のマグマが集中している場所へ、直径500mほどの穴を開け、氷とガスの圧力を受けているマグマを、海へ放出します。そして別方角から…火山を破壊します」
「キラウエアやイエローストーンと同じか?」
思わずスミス大統領が口にした。
『破壊』の言葉に、各国で騒めきが起きる。
他のいくつかの国にも、主要な火山に同じ方法を用いる許可を得ていた。
「はい。世界遺産に登録されている火山もあり、環境保護含めて、様々な反響・批判が出ると思います。しかし、人類を守るためには他に方法はありません」
「皆さん、少し補足させて下さい」
ニュージーランドのハリソン首相である。
ラブ以外は、激しい反論を予想した。
「我が国のトンガリロ国立公園にも、マオリ族の神官や首長たちが埋葬されている、聖なる山トンガリロがあり、破壊の対象になっています」
気性の激しさが有名な首相である。
しかし、その表情は悲嘆に満ちていた。
「もし…破壊されなくても、破局噴火を起こしたら、山は爆発して形を失くす。そればかりか、周囲数百キロに甚大な被害を出してしまいます。ラブさんの決断は、唯一正しい方法なのです」
ハリソン首相の言葉が、ラブを非難の対象から一瞬で消した。
「ハリソン首相、ありがとうございます。批判は直接手を下す、この私が引き受けます。皆さんは仕方なく了解しただけですから」
「ラブさん、この責任はあなた一人のものではない。私たち人類全員が負うものです」
「その通り、我々が生き残るために、山に犠牲になってもらうのですから」
「しかし…どこかの大統領が言うみたいに、ラブさんの方が、みんな納得するかもしれませんね。ハハハ」
こうして、いざ同じ危機に直面すると、世界は一つになれる。
だから信じて守る価値がある。
改めてそう感じるラブであった。
「話を戻してわるいが…滑り落ちる南極の氷を、トリノ何とかで消せば良いのでは?」
イタリアのアミントレ大統領である。
「確かに…それも一理あるな…」
想定していたが、突かれたくない所であった。
論議が始まる前に口を開いた。
「皆さん、トリノビーム砲もそうですが、今回は海上の船からの発射になりますので、地球のエネルギーを使えません。従って、TERRA独自のコスモエネルギーを使用します」
前回もそうであったが、極秘エネルギーにつき、敢えて伝えてはいなかった。
「いずれにしろ、その物質を原子から消滅させるものです。例えば、地表の水は川から海へ流れ、蒸気となって空に上り、雨となって戻ります。地上ではその質量一定の摂理が成り立って機能しているのです」
「なるほど…つまりアレによって消滅したものは、二度と戻らない…と言うことか」
物理学に長けたNASAのエヴァン長官が、その重大さに気付く。
「既に過去に消されたものの影響は、何らかの形で現れているはず。もしあんな巨大な質量を消滅させた場合、自然界の反撃が予測できません。それに、それでは根本の脅威である火山を表に出すことになります」
「確かに…言われてみれば、そうだな。目先の脅威に気を取られ、根本の脅威を忘れておった、すまない」
騒ぎにならず、ホッとしたラブ。
火山の消滅は部分的とは言え、一つではない。
それに、南極の巨大な氷床を消すほどのエネルギーも、なかったのである。
それで会議は終了する…はずであった。
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