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公表資料がアイから各国へ送られた頃。
またもやスミス大統領が、火種を撒いた。
「そう言えば、タム山塊の無人潜水艦の件はどうなっている?」
無関係の国は知らないことである。
全員の興味が、ラブに向けられた。
「関係のない国の方は、資料を送りますので、見て下さい」
目で合図するラブ。
それに応じて、部屋から出て行く凛。
「あの潜水艦は、ロシア北東部のサハリンから来たもので、やはり旧HEAVENの残党が作った水爆でした」
「やはりヴェロニカの仕業か❗️」
もとより相性の悪いエヴァン長官が毒付く。
(ん?)
「旧…ヘブンと言ったか?」
「はい。アレはヴェロニカ達のものではないと思います。私の組織が現地に着いた時に、サハリンの軍事基地は爆破され、軍の話では、跡からは元軍の関係者達の遺体が見つかり、HEAVENのマークのタトゥーも確認されています」
「仲間割れか?」
「爆破したのが軍でないとなると…考えられるのは、ヴェロニカ達の新しいHEAVENしかありません。残っていた戦艦も爆破されています」
理解できないヴェロニカの動向に、戸惑いが隠せない首脳陣たち。
「旧HEAVENのリーダーは、ミゲル・トルヘフ。日本の帝都銀行頭取に成りすまし、資金や武器を基地へ送っていました」
「ミゲル?、ソイツはラルフの下で働いてたミゲル大佐の息子か⁉️」
ロシアのクレール大統領が、そばにいる軍の総司令官から聞いた情報である。
「はい。本日、彼の在日メンバーにより、東京の省庁が集まる一帯が攻撃を受けました」
その情報は、既に彼らにも届いていた。
「さぞかし、多数の死傷者が出て、日本は混乱し、君も心配していることだろう」
ラブの苦悩は、皆理解していた。
しかし、目先の混乱より世界の危機を優先する姿に、改めて敬意を評した。
「しかし…ヴェロニカ達の行動が理解できん。そして、あの潜水艦核爆弾をどうするかだ」
「スミス大統領、監視している貴国の空母ジェラルドで、破壊できないのか?」
原爆は複雑な起動機構が働かない限り、爆発は起こらず、ICBM(大陸間弾道ミサイル)も撃ち落とせば問題はない。
「今あの無人潜水艦は、1500mの深海にいる。その水圧に耐え得る爆弾は無いんだよ。もしも無事に辿り着けても、命中する確率はかなり低い」
黙り込む世界。
と、その時。
外部からの通信が入り込んだ。
「そんなバカなことをしたら最後、あの潜水艦には、振動や衝撃波を感知する起動装置が仕込まれてるわ」
「ヴェロニカ⁉️」
ラブを含め、数人が同時に叫んだ。
「そろそろ、そんな話でもしてるかと思ってね。少しお邪魔するわ」
会議の傍受など楽勝である。
次いで、潜水艦の設計図が送られて来た。
「それが証拠よ。まぁ…分からないとは思うけど。皆さんにもう一度言っておくわね」
画面に映ったヴェロニカ。
「私は無駄な殺戮など、する気はない。あくまで危機感の持てない奴らに、本当の恐怖を与え、自分一人の無力さを知らしめること。そしてもう一つ…と、それは秘密にしておきましょう。とにかく、あの潜水艦核爆弾は、私ではない」
「お前の言うことなど、信用できるか❗️」
同じ様な反論が騒ぎ立てる。
「…うるさい、黙って❗️」
ラブの一括で、ピタリと収まる世界。
「世界がどう思うかなど、あなたは気にしない。本当の目的を話しなさい!」
「さすがはラブ。あなたの公開文で、世界は恐怖と無力さを十分に感じるだろう。私はそれで十分。このまま人類を絶滅させはしない。私にも守りたい人はいて、何よりもまだ…死ぬ気はない」
凛が慌てて入って来た。
「ラブ、監視衛星がタム山塊上空へ向かっている航空機を検知しました」
「おっと、見つかった様ね。もうすぐタム山塊上空へ、私が送った輸送機が着きます。ステルスモードを解除して降下するから、絶対に撃たないでよ」
間もなくして、スミス大統領に報告が入る。
「ラブさん、空母ジェラルドが機体を捉え、戦闘態勢に入った様だ」
モニターに、降下して行く機体が映る。
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