【6】激闘

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〜上空15000m〜 佐久本を乗せているため、通常より低い高度を飛ぶ凛のジェットヘリ。 「大丈夫か?」 「なんとか💧」 遊園地のフリーホールは大好きな彼女。 しかし…いきなり15000mへの垂直上昇は、さすがにキツかった。 「良かった。出発してから何も話さないから、心配してたわ」 凛なりに気を遣って、控えめに離陸したつもりであった。 「座高が5センチ縮まったわ。ランディングも一気にやるなら戻せるかもね💧」 「お…お望みならば」 (やっぱまだ速かったかぁ…💦) 反省してるところに通信が入った。 「凛さん、そろそろ鹿児島に着くころよね?」 「今から降りるとこよ」 (お客様速度を考慮したとは、さすが天才) 通常なら、あと30分は早い。 「やはり霧島火山帯は、桜島が最初なのね?」 「はい、その原因となるマグマ溜まりは、鹿児島よりかなり南西に離れた位置にあるので、沖縄諸島の硫黄鳥島(いおうとりしま)を噴火させます」 「無人島か。都合のいい火山があったものね」 「今冷却爆弾を、米軍が仕掛けてるけど、火口の直径が500mもあって、難航してるみたい。とにかく美優、何とかして桜島の破局噴火を止めて❗️PCに多香子の映像を映すから」 タブレットPCを取り出す美優。 「ほんとにソフトランディングなのね」 「座高が心配なら…」 「結構です!」(早っ💦) (あれ?) 最初は雲かと思った美優。 空高く噴煙を上げる桜島が見えて来た。 初めて見る大きさに驚く。 (あんな大きなものを…いや、やるんだ!) 逃げ出したくなる心を、横たわる多香子の姿が引き戻した。 「アイ、噴煙には耐えられるのか?」 「ジェットエンジンと翼のファンを切り、上部のプロペラを出せば、計算上は大丈夫のはずです」 (はず?) アイが曖昧な表現をするのは珍しい。 「佐久本さん、噴煙を避けて何とか火口に近付いてみるが、完璧には無理だ。それでもやれるか?」 「やれるかじゃなく、やるわ」 負けた…と思った凛。 (頼もしいじゃない) 火口内が3分の2ほど見える位置につけた。 激しい上昇気流の中、機体を水平に保つのは難しい。 (いや…やるんだったな!) その研ぎ澄まされた全神経を、複数の計器や機体から感じる振動、噴煙の動きに集中する。 ヘルメットを取り、装置を頭に着ける美優。 タブレット画面の多香子に集中する。 闘いが始まった。 「うっ…これがあの山…」 多香子の記憶に入って直ぐに、今にも噴き上がりそうに、(うごめ)(たぎ)るマグマが見えた。 全身が焼ける様に熱い。 「ガァッ❗️」 耐えきれずに出る(あえ)ぎ。 それを気にしている余裕はない凛。 (頑張れ…美優、お前ならできる!) 美優の視ている世界では、真っ暗な雨雲が渦巻き、激しい落雷が鳴り響いていた。 「我は龍神の遣い。燃える地の者よ、おまえの居場所はここじゃない! 生まれ(いで)(みなもと)へ還れ❗️」 凄まじい稲妻が走り、辺り一帯を包み込んだ。 そこに…美優は見た。 白銀に燃える炎の中。 鋭い爪が光る両腕を構え、真っ直ぐ見定めるかの様に睨む、龍の姿を。 (龍神様…) その目が一瞬緩み、温かみを感じさせた。 次の瞬間、龍は光の槍となり、荒れ狂うマグマへと突き刺さった。 「…ァァアアアッ❗️」 叫ぶと共に、我に返った美優。 「…痛ッ」 装置を外し、痛む目を手で押さえた。 「終わったのか⁉️」 「…た、多分…終わったわ」 それを聞いて、全エンジンを起動し、フルパワーで上昇した。 プロペラが折れて飛び散る。 間一髪で、新たな噴煙の直撃を(まぬが)れた。 安全高度で自動操縦にし、硫黄鳥島へ向かう。 ヘルメットを取り、美優へ振り向く。 「大丈夫か⁉️」 G(ジー)に耐えきれず気絶した美優。 閉じたその瞳からは、血の涙が流れていた。 「美優…」 悲しみを噛み締め、見つめる凛。 二度と流れることは無い、そう思っていた涙が、凛の頬を伝っていた。 「凛さん、終わったの?美優は無事?」 「ああ…終わった。気絶はしているが無事よ」 「凛さん…泣いてるの?」 「バカな、なぜ私が泣く。それより、準備はできたのか?」 泣いてるのは分かった風花。 「ですよね。米軍が500人がかりで、ついさっき完了したわ。誘爆をお願いします」 硫黄の有毒ガスが立ち込める中、完全防備とは言え、足場もない火口で、命懸けの作業であった。 「了解。あと5分で着く。成功を祈ってろ」 祈りなど、子供の頃に無意味と知った凛。 自分の言葉に驚き…微笑んだ。 「いてて。なにその笑みは?似合わないわよ」 「気のせいだ。ちょっと待って」 胸ポケットからハンカチを出し、美優のを拭き取り、見えない様に握る。 「直ぐに標的に着く。悪かった、また背が縮んだな」 目に当てた掌には、真っ赤な血が付いている。 凛がそれを隠そうとしたことは分かった。 「凛さん…ありがとう」 「なに?気色悪い。いくわよ!」 噴火誘爆用のミサイルを火口にロックし、発射スイッチを押した…。
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