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〜太平洋タム山塊〜
日本の東約1600kmの海底。
北海道3.7個分の広大な火山地帯が、噴火の時を迎えていた。
空母ジェラルドは、航空隊の限界距離近くまで離れ、航空隊は海域を旋回していた。
太平洋側の核基地からも、戦闘機と戦闘ヘリが集結し、その数は70機を超える大編隊である。
「各機に告ぐ、海中の作戦が失敗した場合には、かなりの衝撃波が想定される。同時に津波が発生するため、海面ギリギリの高度を維持し、発生した津波を盾に衝撃波を回避。津波が巨大化する前にミサイルを撃って即上昇せよ。発射のタイミングは、各自の判断に任せる。津波の速度は推定で時速200kmであることを忘れるな。幸運を祈る。以上❗️」
指揮官を命じられた、ジェラルド艦長のミッチェルが最終指示を伝えた。
「艦長、失敗したら艦もお終いですね」
「今更どこまで逃げても同じだ。その時は、太平洋岸の全てが壊滅する。後は祈るしかないな。ボブ、例のものを流せ」
「い、今ですか⁉️」
「今だからこそだ」
「分かりました」
通信士のボブが、全軍に送信した。
『The future of peace』(安らぎの未来)
♪ チムグクル ♪
優しさと労りに満ちたメロディ。
歌詞の意味は分からずとも、その声が伝えようとしているものは感じられた。
緊迫した空間にあってこそ、人は心を開く。
現実の危機に、不安と絶望が支配し始めていた兵士達の心に、その曲が染み込んでいく。
そして、僅かな希望を信じる勇気を与え、諦めずに助け合うことの大切さを伝えた。
回線を開いたままの各司令部やペンタゴン、ホワイトハウスにも、それは届いた。
「何を考えてるんだ!」
大統領の手前、通信機を掴むミラン副大統領。
「まちたまえ」
スミス大統領がそれを止めた。
「良いではないか。チムグクル…とか言ったかな。彼らの曲は、今や我が国でも人気だと聞く。こんな状況になり、私にもその理由が分かる気がするよ」
「は…はぁ…」
「今国民は…いや、全世界の人類が、自分ではどうすることもできない脅威に怯えている。国営放送と衛星放送を使って、彼らの曲を流しなさい」
「分かりました大統領」
そうして全世界の至るところで、チムグクルの曲が流され、人々の心を癒やしていった。
それは、ルイスの通信機からラブにも届いた。
(誰だか知らないけど、やるじゃない)
衰えていた力が、一気に漲って来る。
(アイ、彼らの曲を日本中に流して。責任は後で私がとるから)
(了解しましたラブ様。緊急用・業務用以外のものに侵入し、流します)
後のことではあるが、この件に対するラブへの苦情は、何一つ無かった。
大自然の脅威に不安を持ちながらも、日々の生活を精一杯生きる全ての者が、その温かな曲に癒しと勇気を貰ったのである。
「あっ…私たちの曲だ」
多香子、晋也、美優にも聴こえた。
「今、世界中の人々が、あなた達の曲を聴いてるのよ」
「ラブさん❣️大丈夫ですか?」
「それは本来なら、私のセリフなんだけどね。大丈夫よ」
「良かった〜。でも…どうして?」
3人の中で、先に多香子が尋ねた。
「分かるでしょ。これが沖縄まで行って、あなた達をスカウトした理由よ。もちろん、あなた達の能力は必要だった。でも、『チムグクル』を呼んだのは、この危機に不安を抱く全ての人々の心を癒やし、希望を持って貰うためだったの」
「そんな…私達の曲なんて…」
「ふふっ。新垣さんにも視えなかったのね。ほらっ、この通り」
アイが基地のモニターと、美優のタブレット画面に、彼らの曲に耳を傾けている、世界中の人々の映像を映し出した。
「これが1番の理由。あなた達は特別なのよ」
(こんな苦しいことをさせる為だけじゃない)
「さてさて、感動シーンはそこまで。多香子、晋ちゃん、美優、それから…ラブさん。次の相手が待ってるわよ、頑張って❗️」
冷静を装ってはいる風花だが、事態は急を要しているのは事実であった。
「了解、やるか!」「分かったわ!」
「さっさと済ませましょ」
普賢岳を相手に、心を一つにする3人。
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