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〜イエローストーン国立公園〜
アメリカ合衆国のモンタナ州・ワイオミング州・アイダホ州にまたがる広大な敷地に、地球上の約半分の温泉と、約3分の2の間欠泉がある、特異な自然景観の公園である。
七色に輝く巨大温泉。
色の正体は、温泉の中で繁殖したバクテリアであり、人間は入ることはできない。
オールド・フェイスフル・ガイザー。
世界で最も有名な間欠泉。
約1時間の間隔で、3万リットルの熱水を50メートルの高さまで吹き上げる。
そんな観光スポットが散在し、観光客が絶えない、人気の国立公園である。
しかしこの地底には、地球全体を変えてしまうほどの威力を秘めた超巨大火山「スーパーボルケーノ」(巨大で広範囲のマグマ溜まり)がある。
ここでも、異常な現象が多発していた。
間欠泉の停止や温泉の沸騰、蒸発。
更には頻発する地震と、蒸気やガスの噴出。
全てが、地下の火山活動によるものであることは、地質学者でなくても想定できる。
スミス大統領は、軍の大半を派遣し、大規模な避難活動を始め、T2も大型輸送機で協力を続けていた。
〜空母ライオネル〜
その頃ラブは、次の標的であるハワイのキラウエア火山に向けて、正確な攻撃位置と時間、そして必要なエネルギー量を考えていた。
(やはり…何度やっても同じか…)
まだ生体エネルギーは、戻ってはいない。
あの連発は自殺行為に近かった。
重たい身体に、強大な敵。
さすがのラブでも、絶望感を拭えないでいた。
そこに、極秘通信が入った。
「ラブさん、大丈夫ですか?日本でも作戦が進行中と聞いた。いよいよ我が国もその時を迎えた様だ」
スミス大統領の声に、いつもの覇気がない。
「イエローストーンですね…。広大な国立公園全体が、超巨大なマグマ溜まりの上にある。特定の火山ではなく、公園全体が火口の様なもの。TERRAの冷却爆弾で抑えられるのは10%以下です」
既に軍により、主要な箇所に設置済みである。
大統領の電話の意図は分かった…と思っていた。
「大統領、今は次に噴火が予想される、キラウエア火山の攻略を練っています。次いで、イタリアのエトナ山、ワシントン州のレーニア山、そして、イエローストーン…」
「まだまだ大変なことだ。ところであのトリノビーム砲だが…話では、エネルギーも無く発射できたとか…。未知の技術で分かるわけもないのだが、君を心配する声があるのが事実。その一方で、君に頼ってしまうのも事実だ。情け無いことだが、私はもうどうしたら良いかわからなくてな」
かなり苦悩した感が伝わって来た。
「ご心配をお掛けしてすみませんでした。話すつもりではなかったのですが…南極を撃ったのは、トリノビーム砲ではなく、コスモ砲。効果は似てますが、環境への影響はまずないエネルギーです」
「コスモ砲…前にも聞いた名前だが…」
「コスモエネルギーについて、詳しくは明かせませんが、私の主たる体内エネルギーです。私の専用機やTERRAの原動力にもなっています」
「ではやはり、あれは君が…君自身の力を放出したと言うことか…あぁ何と言うことだ。私達は君に命を削らせて、自分達が生き残る希望を抱いていたとは…」
「大統領、この星と宇宙がある限り、私の命は尽きません。ただ…南極にはかなりのエネルギーを消耗しました。恐らく、次のキラウエア火山か、エトナ山が限界…残念ながら、それらと比にならない程強大なイエローストーンには…勝てない」
今まで、どんな危機や強大な敵にも、決して諦めず、そして勝って来たラブ。
そのラブが、初めて自分の負けを認めた。
自分の限界を知らされたのである。
「ごめんなさい…私じゃ、この地球を…約束した皆んなを、守り切れない」
悔しさと、スミス大統領の優しい声に、我慢していた涙が溢れ出す。
すると…
「謝ることはない❗️」
「君のことは今でも信じている❗️」
「我々でも生き延びる方法があるはず❗️」
「誰もラブさんを責めたりはしないわ」
「えっ…」
「すまない、君の状況をルイス艦長から聞いて、緊急国際会議を開いたんだ」
ペンタゴンの国際会議室に、世界中の首脳陣がリモート参加していた。
「みんな、君を心配してるんだよ。だから、その事実を皆んなを代表して、尋ねてしまった。許してくれ、ラブさん」
一番親しいスミス大統領が、憎まれ役を買ったのである。
「確かに君は私達とは違う。しかし、私達以上にこの世界を、私達を愛して、大切に想ってくれている。一人でその重責を負い、命懸けで守ろうとしている。でも、君は決して一人ではないんだよ、ラブさん」
ロシアのクレール大統領であった。
「その通り、我々には色々な壁があるが、君はそんなものを全く気にしない。皆同じ様に愛してくれている。私達は、君がいるだけで、なぜかいつも仲間になれる。私はそんな君を誇りに思う」
中国の金遜卓大統領。
「ラブさん。君も私達の大切な仲間なんだよ。頼りない我々だが、一緒に闘わせてくれないか?それぐらいの権利はあるよな?」
イタリアのアミントレ大統領。
「私は何かにつまづいて悩んだ時、もし君がアメリカの大統領だったら…と、馬鹿な考えに縋ってしまうんだよ。なり切れるわけもないくせにね」
「スミス大統領もですか、私もよくやってしまうよ。意外に良い考えが浮かぶこともある」
カタール国のジフソン首長が、珍しく会話に加わって来た。
「君を少しでも励まそうかと思ったが、なかなか難しいものだ。ハハ」
明るい笑い声が幾つも聞こえた。
「ラブさん。もう少しだけ、力を貸してくれないか。各国は、自国本土の脅威には、何とか対処するよう動いているが、残念ながら我が国は、ハワイには手が回らない。キラウエアが破局噴火したら、ハワイ島の全員が死滅してしまう。どうか頼む」
「スミス大統領…皆さん…」
予想外のことに、戸惑うラブ。
「ラブさん。私達もみんな、心から君を信頼して、愛しているんだよ」
「眉村首相…」
そこへ外部からの通信が侵入して来た。
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