【7】奇跡の代償

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〜イエローストーン国立公園〜 1872年に世界初の国立公園に指定、世界遺産にも登録され、年間数百万人の観光客が訪れる、アメリカで最も人気の国立公園である。 しかし…今や至る所から高熱の蒸気が噴き出し、周囲500kmにいるのは、軍隊と地質学者のみとなった。 真の姿を現した、北アメリカ最大の火山地帯。 2004年に噴火したセント・ヘレンズ山が、再び噴煙を上げ、解放の時を迎えていた。 3a57afff-1e75-474c-a608-6d62de2dd2e9 地下にある東西80km、南北40kmの世界最大のマグマ溜まりが、最大の脅威である。 ヴェロニカの計算した噴火予測に従って、高速爆発抑制剤散布装置の設置が、着々と進む。 南米やロシアからも救援部隊が到着し、その作業に取り掛かっていた。 その作戦の最中、400km離れたソルト・レーク・シティのサウス・バレー空港に、プライベートジェットが到着した。 作戦本部が設置されたソルト・レーク。 物々しい警備体制が敷かれ、メイソン防衛長官直々に出迎える。 「ずいぶんな歓迎ぶりね、メイソン長官」 「ヴェロニカ博士、まさかここに来るとは驚きましたよ。ワシントン州のレーニア火山に次ぎ、チリのネバドスオホスデルサラド火山も君のおかげで、被害は最小限に抑えられた。しかし、今やあなたは敵でもある。念のために来たまでだ」 無意味な口実は聞き流し、本題に入る。 「ヘリの準備はできてるのか?」 「もちろん…だが、少し座って話でも…」 高速爆発抑制剤散布装置にについて、軍が興味を持たない訳はない。 そんな思惑は予想済みのヴェロニカ。 「詮索はムダよ長官。そんな暇はない。機材を積んだら直ぐに発つから、3人ほど借りても?」 「いったい何をするつもりなんだ?」 「へレンズの噴火が、本物かどうかを確かめに行くわ」 「バカな、あの山へ行くつもりなのか⁉️」 「確かめるには、現地で調べるしかないのよ。時間がない、早くしろ!」 「し…しかし、そんな自殺行為を…」 「よく聞いて!セント・へレンズは予定にない。もし本物ならすぐに止めないと、全てが無意味になるのよ❗️」 「止める?そんな無茶な!」 許可を渋る長官に苛立つヴェロニカ。 「イエローストーン計画は、絶対に失敗してはいけない。もしも破局噴火したら、国立公園は完全に消えてなくなる。そしてシミュレーションでは、3日内に大量の火山灰がヨーロッパ大陸にも到達し、アメリカは75%の国土を実質的に失う。そして半径1000キロメートル以内に住む90%の人々は、火山灰で窒息死してしまう。更に地球の気温は10度下がり、その寒冷気候が10年間は続くのよ、それでもいいのか⁉️」 そこまでの影響など、知るはずもない。 「まさか、そんなことに…」 「あのね、アメリカなんかのために、私がわざわざ敵地に来る訳ないでしょ❗️」 それを聞いていた隊員1人が進み出た。 「私が飛びます、長官!」 するとあと2人。 「自分も行かせてください!」 「自分も!」 「無謀な出動を許可するわけには…」 「では、長官は聞かなかったことにして下さい。私達は勝手に出動します」 「あらあら、勇ましい方々もいるじゃない。それより、これでどうかしら?」 長官に銃を突きつけるヴェロニカ。 「そこの3人。従わないと、撃つわよ❗️」 「君は…分かった。長官を撃たせるわけには行かないので!」 荷物をヘリに運ぶ3人。 更に銃を押し当てるヴェロニカ。 「もしも彼らを罰したら…必ず殺す」 その響きに、本気の殺意を感じるメイソン。 もう止める気はなく、走り行く姿を見送った。 「さぁ、手を」 ヘリからヴェロニカに差し出された。 躊躇なくその手を掴む。 「礼を言うわ。でも…墜落したら殺すわよ」 「了解。可愛い娘が産まれたばかりですから」 そうして、噴煙を上げる頂きへと飛び立った。
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