【7】奇跡の代償

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上昇するなり、地熱が作り出した荒れ狂う気流に流される。 「ちょ、ちょっと。シッカリしてよ!」 「失礼。久しぶりに飛ぶんでな」 「えっ…マジで💦」 「大丈夫ですよ、隊長は一度しか落ちたことはありませんから」 (全然大丈夫じゃないじゃない…💧) 今更心配しても仕方ない。 タブレットPCを取り出し、簡易シミュレーションプログラムに、衛星から送られてくるデータや、目視できる状況を加えるヴェロニカ。 「西側から近付いて、1番広い火口の縁へ!」 「了解」 (谷の気流に気付くとは…さすが最高頭脳) ベテラン故に、彼もそれに気付いていた。 吹き出す蒸気を避けながら、近付いて行く。 ガスマスクを着けるヴェロニカ。 火口の輪郭が揺らいで見えた。 「あなた達、上着を脱いで、ちょうだい」 「はい?」 「早く❗️」 慌てて上着を脱いで渡す2人。 それを床に置き、タンクの水をかける。 「隊長さん、着陸は無理よ。出来るだけ近付いて、まずは爆弾をロープで下ろすわ」 「ば!爆弾⁉️」 「聞いてないぞ!」 「聞かれてないから」 言いながら濡れた上着でそれを包む。 「あなた、その靴を貸してくれるかしら?多分返せないけど」 言われるままに渡す。 自分の靴を履いたまま、その大きな軍用靴を上履きする。 火口付近の地表温度は100度に近い。 2人が荷物を下ろす。 「次は私を吊り下ろして」 「何だって⁉️」 「2回も言わせないで!早く❗️」 「だめだ、俺が行く❗️」 「カチャ」 銃口が彼の額に当たる。 「お前に、あの装置を操作できるのか?」 「し…しかし…」 彼の腕時計を見るヴェロニカ。 「チッ!もういい。隊長、あと2分であれが来る。私が降りたら直ぐに来た方へ戻れ!」 「待て!どうしてそこまで、テロリストの君がやるんだ?」 「ちょっと…古い友人と約束しちゃったからな。 任せろと。それに、可愛い娘が待ってるわよ」 「待て❗️」 その手より先に飛び降りた。 「ドガッ❗️」「グキッ…グッ…」 (しまった…) 地に転がるヴェロニカ。 「ヴェロニカさん⁉️」 「早くドアを閉めて、行って❗️」 直ぐそばまで、薄黄色の風が迫っていた。 「ガスだ、閉めろ❗️」 隊長の声に慌ててドアを閉める。 機を上昇させつつ、ガスを回避する。 「隊長、戻ってください❗️」 火口をガスが包み、視界を奪っていた。 戻れる状況ではない。 「彼女と約束しただろう…残念だが、隊長として、君達2人を無事に連れ帰る責任がある。とは言え、簡単に彼女を諦めることは出来ない。一旦安全空域で、救助できる時を待とう」 「クソッ❗️」 賢明な判断であり、同意するしかなかった。 その頃。 ヴェロニカは、装置をタイマーセットし、タイミングを見計らっていた。 (何としても噴火する前に、マグマを止めないと…視界が悪すぎる。賭けてみるか) 理論と計算で判断して来た彼女が、根拠のない勘に頼ることは珍しい。 (しっかし重いわね、コイツ) 無意識に、装置の再設計を考える冷静さ。 そんな彼女に、運が味方した。 火口の一部から噴き出した蒸気により、一瞬だけその状況が見えた。 (今だ!) 挫いた右足の痛みなど、気にしない。 地面の熱さも無視して腰を下ろし、手をついて装置を両足で押した。 耐熱スーツと手袋が限界を超え、肌を焼く。 「クソッ、さっさと…落ちろっ❗️❗️」 「ドガッ❗️」 渾身の力で蹴った。 爆発抑制剤散布装置が、火口へ落下して行く。 「ヨシッ!」 噴火を起爆に使っては手遅れである。 爆弾を2つ手に取り、直ぐ様投げ入れた。 (いい子だから、頼むわよ…) 「ドドーン💥💥❗️」 爆発と共に、激しい閃光が火口内を満たした。 噴火間際のマグマが、急激に冷却され、一瞬にして数百メートルの深さまでを固めた。 気温も下がり、成功を示す蒸気が上がる。 「やった⁉️」 離れた上空からも、それは見えた。 「隊長、彼女、やりましたよ❗️」 「ああ、さすがだ。しかし、まずい…」 火口には大量の水蒸気が充満し、周囲から吹き出す高熱のガスと蒸気が、一気に流れ込む。 そうなることは、当然想定していた。 (ラブ…約束は果たしたわよ!) 立ち上がり、閉じた瞳から涙が頬を伝う。 (さよなら…) 今にも水蒸気爆発が起こる、その時。 「ヴェロニカ、掴まれ❗️」 (えっ?) 振り向いたそこに。 「ティ…ティーク⁉️」 ヘリからワイヤーで降りて来た彼がいた。 咄嗟にその手を掴むヴェロニカ。 引き寄せ、シッカリ抱きとめるティーク。 ワイヤーを巻き上げながら、アイの遠隔操縦で、一気に離れて行く。 「ズドドドーン💥💥」 激しい爆発が、セント・へレンズの山頂が、固まった火口まで吹き飛んだ。 「無茶しやがって、全く」 「でも、どうして…?」 「ウチのボスは、心配性だからな。お前が失敗しないか、サポートしろと」 そんなつもりで、ティークを派遣したのではないことは、聞かずとも分かった。 (ラブ…) ヘリに乗り込んだ2人。 ワイヤーを外し、ドアを閉めた。 「まさか敵を助けるとは、俺も…」 言いかけた口を、ヴェロニカの唇が塞いだ。 強く抱きしめ合ったまま、ヘリはアメリカを後にした。 「た…隊長、ヴェロニカさんが…」 反対側からアプローチしたティークの機は、彼らには見えていなかった。 あの爆発で生きているわけはない。 「なんて人だ。最初から分かってたのか…」 「あの山を吹き飛ばすなんて…テロリストらしい最期です」 「最高のテロリストだな…全く、クソッ!」 「帰りましょう、隊長」 「ん…あぁそうだな。まだ脅威が去ったわけではない」 それぞれに複雑な思いに涙を堪え、ソルト・レイクの作戦本部へと戻って行った。
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