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上昇するなり、地熱が作り出した荒れ狂う気流に流される。
「ちょ、ちょっと。シッカリしてよ!」
「失礼。久しぶりに飛ぶんでな」
「えっ…マジで💦」
「大丈夫ですよ、隊長は一度しか落ちたことはありませんから」
(全然大丈夫じゃないじゃない…💧)
今更心配しても仕方ない。
タブレットPCを取り出し、簡易シミュレーションプログラムに、衛星から送られてくるデータや、目視できる状況を加えるヴェロニカ。
「西側から近付いて、1番広い火口の縁へ!」
「了解」
(谷の気流に気付くとは…さすが最高頭脳)
ベテラン故に、彼もそれに気付いていた。
吹き出す蒸気を避けながら、近付いて行く。
ガスマスクを着けるヴェロニカ。
火口の輪郭が揺らいで見えた。
「あなた達、上着を脱いで、ちょうだい」
「はい?」
「早く❗️」
慌てて上着を脱いで渡す2人。
それを床に置き、タンクの水をかける。
「隊長さん、着陸は無理よ。出来るだけ近付いて、まずは爆弾をロープで下ろすわ」
「ば!爆弾⁉️」
「聞いてないぞ!」
「聞かれてないから」
言いながら濡れた上着でそれを包む。
「あなた、その靴を貸してくれるかしら?多分返せないけど」
言われるままに渡す。
自分の靴を履いたまま、その大きな軍用靴を上履きする。
火口付近の地表温度は100度に近い。
2人が荷物を下ろす。
「次は私を吊り下ろして」
「何だって⁉️」
「2回も言わせないで!早く❗️」
「だめだ、俺が行く❗️」
「カチャ」
銃口が彼の額に当たる。
「お前に、あの装置を操作できるのか?」
「し…しかし…」
彼の腕時計を見るヴェロニカ。
「チッ!もういい。隊長、あと2分であれが来る。私が降りたら直ぐに来た方へ戻れ!」
「待て!どうしてそこまで、テロリストの君がやるんだ?」
「ちょっと…古い友人と約束しちゃったからな。
任せろと。それに、可愛い娘が待ってるわよ」
「待て❗️」
その手より先に飛び降りた。
「ドガッ❗️」「グキッ…グッ…」
(しまった…)
地に転がるヴェロニカ。
「ヴェロニカさん⁉️」
「早くドアを閉めて、行って❗️」
直ぐそばまで、薄黄色の風が迫っていた。
「ガスだ、閉めろ❗️」
隊長の声に慌ててドアを閉める。
機を上昇させつつ、ガスを回避する。
「隊長、戻ってください❗️」
火口をガスが包み、視界を奪っていた。
戻れる状況ではない。
「彼女と約束しただろう…残念だが、隊長として、君達2人を無事に連れ帰る責任がある。とは言え、簡単に彼女を諦めることは出来ない。一旦安全空域で、救助できる時を待とう」
「クソッ❗️」
賢明な判断であり、同意するしかなかった。
その頃。
ヴェロニカは、装置をタイマーセットし、タイミングを見計らっていた。
(何としても噴火する前に、マグマを止めないと…視界が悪すぎる。賭けてみるか)
理論と計算で判断して来た彼女が、根拠のない勘に頼ることは珍しい。
(しっかし重いわね、コイツ)
無意識に、装置の再設計を考える冷静さ。
そんな彼女に、運が味方した。
火口の一部から噴き出した蒸気により、一瞬だけその状況が見えた。
(今だ!)
挫いた右足の痛みなど、気にしない。
地面の熱さも無視して腰を下ろし、手をついて装置を両足で押した。
耐熱スーツと手袋が限界を超え、肌を焼く。
「クソッ、さっさと…落ちろっ❗️❗️」
「ドガッ❗️」
渾身の力で蹴った。
爆発抑制剤散布装置が、火口へ落下して行く。
「ヨシッ!」
噴火を起爆に使っては手遅れである。
爆弾を2つ手に取り、直ぐ様投げ入れた。
(いい子だから、頼むわよ…)
「ドドーン💥💥❗️」
爆発と共に、激しい閃光が火口内を満たした。
噴火間際のマグマが、急激に冷却され、一瞬にして数百メートルの深さまでを固めた。
気温も下がり、成功を示す蒸気が上がる。
「やった⁉️」
離れた上空からも、それは見えた。
「隊長、彼女、やりましたよ❗️」
「ああ、さすがだ。しかし、まずい…」
火口には大量の水蒸気が充満し、周囲から吹き出す高熱のガスと蒸気が、一気に流れ込む。
そうなることは、当然想定していた。
(ラブ…約束は果たしたわよ!)
立ち上がり、閉じた瞳から涙が頬を伝う。
(さよなら…)
今にも水蒸気爆発が起こる、その時。
「ヴェロニカ、掴まれ❗️」
(えっ?)
振り向いたそこに。
「ティ…ティーク⁉️」
ヘリからワイヤーで降りて来た彼がいた。
咄嗟にその手を掴むヴェロニカ。
引き寄せ、シッカリ抱きとめるティーク。
ワイヤーを巻き上げながら、アイの遠隔操縦で、一気に離れて行く。
「ズドドドーン💥💥」
激しい爆発が、セント・へレンズの山頂が、固まった火口まで吹き飛んだ。
「無茶しやがって、全く」
「でも、どうして…?」
「ウチのボスは、心配性だからな。お前が失敗しないか、サポートしろと」
そんなつもりで、ティークを派遣したのではないことは、聞かずとも分かった。
(ラブ…)
ヘリに乗り込んだ2人。
ワイヤーを外し、ドアを閉めた。
「まさか敵を助けるとは、俺も…」
言いかけた口を、ヴェロニカの唇が塞いだ。
強く抱きしめ合ったまま、ヘリはアメリカを後にした。
「た…隊長、ヴェロニカさんが…」
反対側からアプローチしたティークの機は、彼らには見えていなかった。
あの爆発で生きているわけはない。
「なんて人だ。最初から分かってたのか…」
「あの山を吹き飛ばすなんて…テロリストらしい最期です」
「最高のテロリストだな…全く、クソッ!」
「帰りましょう、隊長」
「ん…あぁそうだな。まだ脅威が去ったわけではない」
それぞれに複雑な思いに涙を堪え、ソルト・レイクの作戦本部へと戻って行った。
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