【7】奇跡の代償

8/9

99人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
「風花さん、見つかってない…ではなくて、見つけられてない…が正しいのでは?」 「ラブさん⁉️」 3人がほぼ同時に叫んだ。 「もう…大丈夫なんですか?」 1人で責任を負っていた風花にとって、最も心強い存在の復帰である。 「ごめんなさいね。日本を任せちゃって」 その声は、硫黄島上空の2人にも聞こえた。 「ラブ…さん、おかえりなさい」 「やっと主役のお出ましね。もうここが最後よ…と言いたいけど、何だか違うみたいなのよね」 美優の運命は、龍神の(もり)で聞いていた。 それは誰にも変えられない宿命であることも。 「風花さん考えてみて。標高3776mの山、更にそのほとんどが磁鉄鉱で出来ていて、それは地下深くまで続いています。そしてマグマ量の測定には、マグマに流れている電流によって生じる電磁波を利用しているはず」 「あ!もしかして、富士山の樹海では、コンパスが効かなくなるってやつかな?」 オカルト好きな比嘉が反応する。 「あれは逸話よ。地表の磁鉄鉱にそんな力はないし、普通に使えるわ。でもそうか…もし富士山の真下にマグマ留まりがあった場合、数十キロの厚さの磁鉄鉱が邪魔になる…」 「そういうこと。アイ、衛星画像を見せて。それから、富士周辺の温度変化を分析をしてみて」 モニターに現在の富士山が映る。 「火口を拡大」 ラブの指示でアイが拡大した。 dab2d8b3-e431-468e-8974-7b2e3e2c3cb3 「そんな…」 その映像に力なく呟く風花。 富士山の火口周辺から、噴火の予兆とも言える蒸気が吹き出している。 「凛、急いで富士へ❗️」 「マジか…」 硫黄島からマグマを辿ったことで、かなりの体力を消耗している美優。 「そんな目で…見ないで…くれる。まだ生きてるわよ。早く…向かって」 「ハイハイ、仰せの通り」 (クソッ!私が弱気になるなんて) 旋回し、全速力で富士へと向かう。 その真逆に、もう一機のジェットヘリがいた。 「ラブ、ヴェロニカから最後の贈り物だ」 「ティーク!間に合ったのね」 「何とかな。世界では死んだことになってる様だがな」 「良かったわ。彼女はサンクトペテルブルクの要塞ね?」 「ああ、間に合った」 新生HEAVENの将軍であるヴェロニカの死は、残された組織の報復攻撃を生み、世界を無差別な炎で焼き尽くし兼ねなかった。 「ラブさん、始めます」 2人はもうスタンバイ済みで、多香子はモニターに映る富士山の火口に集中していた。 「グッ…❗️」 写真などで見て知っている山が故に、その変わり果てて行く光景はキツい。 「えっ⁉️嘘よ…そんな❗️」 初めて見る反応に、戸惑う風花。 「なに❗️どうすればいいんだ⁉️」 少し遅れて晋也も困惑の声を上げる。 (まさか⁉️) 「アイ、宝永火口を拡大して!」 「宝永火口?」 風花が首を(かし)げる。 「やっぱり。富士山には、3つの火口があって、この宝永火口は山頂火口より大きいのよ」 山頂と同じように、蒸気を上げる姿が映し出された。 97f10128-cd3e-4a50-9c7a-7d1cc04b0350 「まさか2箇所同時に?」 「2人の様子からみて、恐らく」 「ラブ…さん。私の力では、2つの相手は無理。山頂は…引き受けるか…ら、下は爆発抑制…何とか装置でよろしく…」 「美優さん…分かったわ❗️頑張ってね❣️」 (あなたのことは、絶対に忘れないから) 頭の中に届いたに一瞬驚く美優。 (ラブさん。大丈夫、生まれた時からの私の使命だから。気にしないでください) (本当に、ありがとう。美優さん…いつまでも、あなたは私の大切な仲間だからね) (うん。ありがとう。さて…最後だから、思いっ切り暴れてやるわ❗️) 「ティーク、お土産は富士山中腹の宝永火口へ。凛、美優さんを山頂火口へ…降ろして」 さすがに言葉が少し途切れた。 「了解…ぃ?って、ラブ⁉️降ろすってどういうことなのよ⁉️」 「凛さん。もうマグマ溜まりには間に合わない。それに、この山は今までのとは桁違いに違うの。離れていては勝てない。だから、もう何も言わずに私を降ろして、避難して下さい」 「み…美優」 さっきまでの弱々しさが消え、その身体の輪郭には、薄っすらと光が浮かび上がっていた。 (チッ!)「どこにする?ご希望は?」 前を向き、いつも通りに話す凛。 「出来るだけ深いとこ。間違っても落っこちないでよね」 「分かってるわよ❗️全く、相変わらず愛想のないガキだ」(ほんとに…良くできたやつだ…) ヘルメットの中で、涙が溢れていた。 「あと…」 「何だ?まだリクエストがあるのか?」 「今まで、本当にありがとうございました。凛さんのおかげで、私は使命を果たせます。ラブさんに危険が迫ってます。必ず守ってください。さよなら」 火口面に近づいたのを見て、自分でドアを開け、灼熱の地に降りた。 小型の酸素ボンベを背負いマスクを着け、耐火服と靴を身に纏った、小さな戦士。 たった一人。 巨大な富士山に立ち向かう姿に、ラブが重なって見えた気がした凛。 (ラブに危険が?…ミゲルか❗️) 「シッカリな、美優!ラブは必ず守る❗️」 目を合わせた後、一気に急上昇した。 今にも噴き出しそうな火口へ向く美優。 (さぁて、頼むわよ龍神様❗️) 気迫が(みなぎ)り、光が増す。 時を同じくして、ティークも宝永火口へ装置を降ろし、急上昇して離れた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加