【7】奇跡の代償

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観測データとモニターに注意しながら、ソファーで体を休めている多香子と晋也の診察をしている風花。 監視衛星からは、蒸気で美優の姿は見えない。 しかし、確実にそこに美優は居る。 たった一人で。 もう何も出来ない歯痒さと、余りにも悲しい別れへの辛さに、涙を堪えて耐える3人。 「ええ、予想外の結果になってしまいました。何とか大噴火は防げると思います」 ラブは眉村首相からの電話に応対している。 富士山周辺はパニックに陥り、都内でも逃げ出す人々が、空港や東北方面への電車に殺到していた。 「今更逃げても仕方あるまい。止められなかったら、日本は終わる。だが、私は君たちを信じているよ。必ず守ってくれると」 比嘉晋也、新垣多香子、佐久本美優。 3人のことは、告知できるはずもない。 今回の地球規模の脅威で、初めて自分の限界を知らされたラブ。 どうしようもない現実に直面し、必ず守ると言い切れない自分が、悔しくてたまらない。 それを察している眉村。 「ラブさん。君のことだ、きっと自分を責めているのだろう。君はちゃんと世界を救ったじゃないか。例え君が直接対処したのではなくても、世界をまとめて動かしたのは、紛れもなくラブさん、君だ。それは他の誰にも出来ない、君にしかできないことなんだよ」 堪えていた涙が、じわじわと滲み出てくる。 「ありがとうございます。私に出来ることをします。まだまだ…出来るかもしれないから。失礼します」 電話を切り、メインルームへ戻った。 「ラブさん…美優が…美優が…」 「バカ多香子!ラブさんだって辛いんだ」 「でも…」 「多香子さん、最後まで見守ってあげなさい。あなた達3人は、特別な友達なんだから」 ラブを見てうなずく2人。 「皆様、間もなく臨界点に達します」 「アイ、富士周辺と関東一帯の放送を、私に回して、カメラも私を写して」 何も聞かず、瞬時に準備を終えたアイ。 テレビや街中のあらゆるモニターに映るラブ。 そして、涙を隠しもせずに語りかけた。 「皆さん、予想もしなかったことで、不安や恐怖を感じていることでしょう。今まさに、あの富士山が噴火しようとしています」 突然のラブに、皆んな動きを止めて聞いた。 ラブの涙に、恐怖も忘れて見入った。 「世界中のあらゆる火山が、同じ様な状況にありました。でも、世界が手を組んで必死に頑張ったおかげで、何とか最小限に抑え、地球人類滅亡の危機を回避しました」 公開していなかった、地球人類滅亡の危機。 まさかそれ程とは考えてもいなかった人々。 しかし、富士山噴火の広報を聞いた今、人類滅亡という言葉が、真実味を帯びて聞こえた。 「そして今、日本もその力を借りて、富士山の噴火を止めようとしています。私は必ず止められると信じています。どうか皆さん落ち着いて、私と一緒にその成功を祈ってください。パニックにならずに、皆さんの信じる力と勇気を、この私に下さい。必ず、止められます❗️」 祈るラブを包み込む様に、澄んだ三線(さんしん)の音色が聞こえ始める。 もう誰もが何度も聴いた、チムグクルの曲が、街中を、仕事場を、居住空間を、穏やかに優しく流れていく。 皆んな慌てることをやめ、その曲と歌声に心を委ね、口ずさむ者も大勢いた。 そうして、一つに繋がったことを感じた心には、自然な勇気が湧いて来た。 怖いのは自分1人じゃない。 ラブと、ラブを通じてお互いを信じ合う力。 それこそが、今一番必要なものだと思えた。 「噴火します」 アイの声が、静かなメインルームに響いた。 モニターに映る富士山から、一瞬マグマの(ほのお)が見えた。 a22aff8f-69bd-4634-94c2-3c2db28f284f それとほぼ同時に、山頂を眩い光が包み込む。 中腹の宝永火口は、真っ白な煙に覆われた。 誰もが息を止めて、次に来るかも知れない、大きな力を想像して身構える。 そうして十数秒。 軽い揺れはあったが、何も…起こらなかった。 一気に歓喜が湧き上がって来る。 大歓声があちこちで響き、近くにいる知らない者と抱き合って、無事を喜んだ。 「やった。皆んなありがとう。ありがとう❗️」 「ラブさん❗️」 ひざまづいたラブに、多香子と晋也と風花が、無意識に飛び付く。 「美優がやった!美優が富士山に勝った❗️」 悲しみより、喜びの涙がたくさん流れた。 日本中がその成功を心から喜び、改めて平凡な日常の幸せを、実感したのであった。
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