【2】崩壊の地へ

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【2】崩壊の地へ

お互い、今はかける言葉も必要ない。 無言で舞台裏へ降りると、係員が待っていた。 「皆さん、出演者専用の客席へご案内します」 にこやかな顔に、まだ潤んだ瞳が残っている。 たまらずハンカチを目尻にあてる。 「すみません💦感動しちゃって…」 「ありがとうございます。しかし…私達がトリで、後は全員で合唱するのでは?」 「私も実はよく分からないのですが、上からの指示でして」 ゲスト出演者は、既に2曲ずつ歌って、今頃は雲の上である。 「こちらから、どうぞ」 案内されるままに客席へと向かう。 「あっ!チムグクル、良かったぞ〜❗️」 「チムグクル、最っ高❗️」 見つけた観客から声が飛ぶ。 とりあえず手を振ってそれに応える。 「こちらへお掛けください」 5人分の席が用意されていた。 隣には、毎年トリを務めていた人気バンド。 「君達にトリを譲って良かったよ。その後じゃとても歌えないところだった」 バンドリーダーの坂崎(さかざき)貴船(きふね)である。 「とんでもないです💦坂崎さん達は、メジャーデビューが決まったんですよね?やっぱりすごいです!」 「沖縄(しま)を離れるのは名残惜しいが、前へ進んでみようかと決心したんだ」 「頑張ってください。応援してますから!」 「ありがとう。君達もな!」 そこで照明が消え、スポットライトに宮城が現れた。 「出演者の皆さん、お疲れ様でした。10周年に相応(ふさわ)しく素晴らしいステージでした。さて、実は最後に皆さんへ、サプライズプレゼントがあります」 「サプライズ?」 騒めく会場が期待に膨らむ。 「えっ❣️」 多香子が驚きの声を漏らした。 「では…本日のスペシャルゲスト!よろしくお願いします❣️」 スポットライトが、1台の半透明でピンクのピアノに変わった。 『🎶…🎵』 その高音の一弾きが響き… スッ…と、騒めきが収まっていく。 『い〜ま〜巡ぅ〜り逢ぁぃい、同じぃい風ぇ〜を知いぃりぃい。心ぉ重ぁ〜ね合ぁいぃ、唄ぁあをぉー……♬!…歌ぁぉ〜お〜〜⤴️❣️』 スタジアムの隅々まで染み渡る様な美しい声。 アカペラで語る様に歌い始め、力強い超高音が突き抜けた❣️ 間を取り、軽やかなピアノの音色が流れ出す。 「皆さんこんにちわ、ラブです」 演奏しながら、優しい笑顔の挨拶。 その瞬間、割れんばかりの大歓声と拍手が、スタジアムに響き渡った。 「アッハ〜!すごくパワフル❗️ついに来ちゃいました。皆んなの歌を聴いてたら、私も歌いたくなったし。いいかなッ⁉️」 「オォォォオ〜〜❣️」 「ホントにぃ⁉️」 「オォォォオ〜〜❣️」 「マジ行くよッ⁉️」 「オォォォオ〜〜❣️」 「これ、何回まで付き合ってくれるんだろ?」 場内を笑いが包み込む。 「冗談冗談。では、聴いて下さい。『LOVE』」 定番のオープニング曲。 しかし、ソロピアノの弾き語りは超レアもの。 へッドセットマイクを着けたラブ。 立ち上がってアクロバティックな演奏や、一音3〜5打の超高速弾きなどを交え、時には観客と共に歌い、またしんみりと弾き語り、全5曲を歌い上げた。 感激の拍手喝采が鳴り止まない。 「どうもありがとうございました❣️音楽は万国共通の言語!意味は分からなくても、その想いはきっと伝わります。…たぶんね💦。出演者の皆さん、素敵な歌や曲を、そして幸せな時間を、本当にありがとう❣️これにて、第10回記念、沖縄ミュージックフェスティバルを閉会します!皆んな来年も会いましょうね!お気をつけてお帰りください」 深礼するラブを、プロジェクションマッピングが包み込み、いつの間にか白い鳩となり、映像の世界へ飛び立って行った。
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