【2】崩壊の地へ

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〜楽屋〜 フェスティバルは終わり、出演者達はそれぞれの楽屋に戻り、帰り支度をしていた。 「やっぱりプロは違うな〜」 「特にラブさんは別格だな。ピアノ一つで、あれだけ違った音色を奏でるとは」 健司も俊幸も、その表現力の違いに圧倒され、改めてラブの魅力を感じていた。 「な〜んだ、あの美脚と綺麗な容姿に目を奪われてるかと思ったら、ちゃんと見るとこ見てたのね」 美優がからかう。 「晋也と多香子ぉ…どうしたの?あなた達も、(とりこ)にされちゃってんの?」 普通なら、一番はしゃぎそうな2人が、妙に静かにしていた。 「いや…虜って言うか、レベルの違いを感じたってとこかな。完全にラブさんの描く世界に引き込まれて、心が震えた」 「私も…生で初めて見て、すごく眩しいって言うか、大きな愛情みたいなものを感じたわ」 まだ皆んな呆然としていた。 「そんな化け物みたいに言わないで」 入り口からの声に、飛び上がるほど驚く5人。 知らない間に、そこにラブがいた。 「ラブさん⁉️」 「ど、どうして💦」 「勝手にごめんね〜。ノックはしたのよ」 誰も気付かなかった。 自分達のステージとラブのステージ。 2つの感激に陶酔していたのである。 (さすが、見込んだだけのことはある) 「私が来たのは、あなた達に会って話がしたかったからなの」 彼らの歌を初めて聴いた時、ラブは自分と似たを感じたのであった。 「私たちに?」 「新垣多香子さん、あなたが作詞してるのよね?それにあの声の波長は魅力的だわ」 「あ…ありがとうございます💦」 「比嘉晋也さん、あなたの描くメロディは、プロ顔負けって感じ」 「そ…そんなこと、とんでもない💦」 「編曲とアレンジは佐久本美優さんだったわね?綺麗に形を創って、自分の三線(さんしん)の音色も生かしてる」 「私は…イメージを譜面にしてるだけです」 「ドラムの比嘉健司さん、ベースの金城俊幸さん。2人は美優さんのイメージと、晋也さんと多香子さんの想いを、見事に理解して際立たせてる」 「そ…そうかな💦なぁトシ?」 「ま…まぁ、そのつもりだけど💦」 慌てて照れる4人と、冷静な1人。 それもラブの読み通りであった。 「つまり、あなた達の『思いやりの心』は、完璧なのよ。どう?私のところへ来てみない?」 「えっ⁉️」(5人のリアクション) 「早い話しが、私はあなた達をスカウトしに来たのよ❣️実は…前もって内緒でご両親には承諾を頂いてるわ。まだ未成年だからね」 ただの芸能界とは違う。 超大手、TERRAコーポレーションへの入社を、断る理由は無かった。 ラブの契約は、終身雇用が基本である。 現在芸能部門には、20組ほどの歌手や奏者、40人ほどのモデルや俳優がいて、過去にはその道を辞め、別の部署へ異動した者もいる。 「す…スカウトですか…私たちを?」 予想もしていなかった道が目の前に広がった。 しかも、あのトーイ・ラブ直々の話である。 「まだ高校の途中だから、卒業してからでもいいけど…もし、これからもその想いを世界へ届けたいなら、話題になっている今がチャンスよ。高校は、東京の専門校へ編入して、通いながらの活動する方法もとれます」 特に今の高校に執着はない。 音楽でやっていけるなど、甘い世界ではないと思い、とりあえず就職のために通っていた。 「私のことは信頼してね。責任持ってあなた達を社員に迎えるから。と言っても急だから、返事はまだいいわ。他にやりたい夢があるかも知れないし。詳細は資料を読んで、考えてみて下さい。よろしくお願いします」 名刺と資料を渡し、頭を下げたラブ。 あの大スターが、目の前にいるだけでも奇跡。 「お願いだなんて💦」 夢の様な話に、慌てる皆んな。 彼らの夢が音楽であることは、分かっていた。 「これは、経営者としてのリクルート活動だから。でも…それ以上に、同じ音楽の世界に生きる個人として、あなた達の歌を、もっと世界に届けたいと思ってます。良かったら、一度見学にでも来てみて。連絡くれたら、招待しますので」 ラブの本気度は十分伝わっていた。 「分かりました。とりあえず、また連絡します。…でいいよね、皆んな?」 うなずく皆んな。 「良かった。じゃあ、あなた達との専用携帯のLINEを交換しましょ。気楽にいつでも何でも送ってくれていいから」 スマホを出して、全員と友達登録をした。 「では、今日はこれで失礼しますね。会えて良かったわ。返事を待ってます」 一礼して、笑顔で出て行くラブ。 「ありがとうございました❣️」 「アハッ、さすが!息もピッタリね」 出て行った。 まだ信じられない5人であった。
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