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〜楽屋〜
フェスティバルは終わり、出演者達はそれぞれの楽屋に戻り、帰り支度をしていた。
「やっぱりプロは違うな〜」
「特にラブさんは別格だな。ピアノ一つで、あれだけ違った音色を奏でるとは」
健司も俊幸も、その表現力の違いに圧倒され、改めてラブの魅力を感じていた。
「な〜んだ、あの美脚と綺麗な容姿に目を奪われてるかと思ったら、ちゃんと見るとこ見てたのね」
美優がからかう。
「晋也と多香子ぉ…どうしたの?あなた達も、虜にされちゃってんの?」
普通なら、一番はしゃぎそうな2人が、妙に静かにしていた。
「いや…虜って言うか、レベルの違いを感じたってとこかな。完全にラブさんの描く世界に引き込まれて、心が震えた」
「私も…生で初めて見て、すごく眩しいって言うか、大きな愛情みたいなものを感じたわ」
まだ皆んな呆然としていた。
「そんな化け物みたいに言わないで」
入り口からの声に、飛び上がるほど驚く5人。
知らない間に、そこにラブがいた。
「ラブさん⁉️」
「ど、どうして💦」
「勝手にごめんね〜。ノックはしたのよ」
誰も気付かなかった。
自分達のステージとラブのステージ。
2つの感激に陶酔していたのである。
(さすが、見込んだだけのことはある)
「私が来たのは、あなた達に会って話がしたかったからなの」
彼らの歌を初めて聴いた時、ラブは自分と似た音の質を感じたのであった。
「私たちに?」
「新垣多香子さん、あなたが作詞してるのよね?それにあの声の波長は魅力的だわ」
「あ…ありがとうございます💦」
「比嘉晋也さん、あなたの描くメロディは、プロ顔負けって感じ」
「そ…そんなこと、とんでもない💦」
「編曲とアレンジは佐久本美優さんだったわね?綺麗に形を創って、自分の三線の音色も生かしてる」
「私は…イメージを譜面にしてるだけです」
「ドラムの比嘉健司さん、ベースの金城俊幸さん。2人は美優さんのイメージと、晋也さんと多香子さんの想いを、見事に理解して際立たせてる」
「そ…そうかな💦なぁトシ?」
「ま…まぁ、そのつもりだけど💦」
慌てて照れる4人と、冷静な1人。
それもラブの読み通りであった。
「つまり、あなた達の『思いやりの心』は、完璧なのよ。どう?私のところへ来てみない?」
「えっ⁉️」(5人のリアクション)
「早い話しが、私はあなた達をスカウトしに来たのよ❣️実は…前もって内緒でご両親には承諾を頂いてるわ。まだ未成年だからね」
ただの芸能界とは違う。
超大手、TERRAコーポレーションへの入社を、断る理由は無かった。
ラブの契約は、終身雇用が基本である。
現在芸能部門には、20組ほどの歌手や奏者、40人ほどのモデルや俳優がいて、過去にはその道を辞め、別の部署へ異動した者もいる。
「す…スカウトですか…私たちを?」
予想もしていなかった道が目の前に広がった。
しかも、あのトーイ・ラブ直々の話である。
「まだ高校の途中だから、卒業してからでもいいけど…もし、これからもその想いを世界へ届けたいなら、話題になっている今がチャンスよ。高校は、東京の専門校へ編入して、通いながらの活動する方法もとれます」
特に今の高校に執着はない。
音楽でやっていけるなど、甘い世界ではないと思い、とりあえず就職のために通っていた。
「私のことは信頼してね。責任持ってあなた達を社員に迎えるから。と言っても急だから、返事はまだいいわ。他にやりたい夢があるかも知れないし。詳細は資料を読んで、考えてみて下さい。よろしくお願いします」
名刺と資料を渡し、頭を下げたラブ。
あの大スターが、目の前にいるだけでも奇跡。
「お願いだなんて💦」
夢の様な話に、慌てる皆んな。
彼らの夢が音楽であることは、分かっていた。
「これは、経営者としてのリクルート活動だから。でも…それ以上に、同じ音楽の世界に生きる個人として、あなた達の歌を、もっと世界に届けたいと思ってます。良かったら、一度見学にでも来てみて。連絡くれたら、招待しますので」
ラブの本気度は十分伝わっていた。
「分かりました。とりあえず、また連絡します。…でいいよね、皆んな?」
うなずく皆んな。
「良かった。じゃあ、あなた達との専用携帯のLINEを交換しましょ。気楽にいつでも何でも送ってくれていいから」
スマホを出して、全員と友達登録をした。
「では、今日はこれで失礼しますね。会えて良かったわ。返事を待ってます」
一礼して、笑顔で出て行くラブ。
「ありがとうございました❣️」
「アハッ、さすが!息もピッタリね」
出て行った。
まだ信じられない5人であった。
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